空が真っ黒、水鳥「カワウ」の恐怖 漁業被害やフン害… 共生の道はあるのか(産経新聞)

 ヒチコック監督のパニック映画「鳥」で描かれているように、無数の鳥は人間に恐怖を覚えさせることがある。そんな情景が今、日本の各地で見られるようになった。鳥の正体は大型の水鳥「カワウ」。全国で生息域を広げ、アユを大量に捕食したり、フンで樹木が枯死したりする被害も発生している。国内最大の生息地・琵琶湖(滋賀県)を有する関西広域連合は、県境を越えて移動するカワウ対策を実施。国と足並みをそろえ、「数年で半減」の目標を掲げている。(井上浩平)

 ■アユ1トンが1週間で…

 「憎たらしい存在。1日に2万~3万羽がやってきて空は真っ黒。放流したアユを食い尽くし、壊滅させたこともある」

 滋賀県河川漁業協同組合連合会の佐野昇会長(64)はそう憤った。

 佐野会長によると、地元の大戸川では放流したアユをカワウに補食される被害が絶えず、ピーク時の約20年前は、約1トンを放しても1週間もたたずに根こそぎ食べられていたという。

 漁協は、禁漁期間中に川の水面の上に糸を張ってカワウを近づかせない対策を行うことで、一定の効果を上げた。

 ただ、毎年6~9月のアユ釣り解禁中は糸を切らざるを得えず、カワウは釣り客がいないタイミングを狙って接近してくる。そのため、毎日午前4時ごろから数時間、組合員数人が川沿いに1キロ間隔で並び、時間差で5連発の花火を放ち、カワウを少しずつ上空に遠ざけるという地道な対策を取り続けている。

 佐野会長は「大変な労力だし、ここまでやっている組合は他にない。それくらいしないと追い払えない」と苦々しく話す。

 ■半世紀前に絶滅危機も

 環境省などによると、カワウはペリカンの仲間で、体長約80センチ、体重1・5~2・5キロの水鳥。岐阜県の長良川などで行われる「鵜飼漁」で使われるウミウとは別の種類だ。水に潜ってアユやウグイなど魚種を問わずに捕らえ、1日に300~500グラムを食べる。

 高い移動能力を誇り、日常的な行動範囲は直径数十~50キロ。調査では、霞ケ浦(茨城県)から浜名湖(静岡県)の間を3日で往復したケースもあったという。

 昭和30~40年代には環境汚染や干潟の埋め立てなどで激減し、46年には全国で3千羽まで減少して絶滅の恐れもあった。しかし、環境改善や河川改修で魚が隠れる場所が少なくなったこともあり、平成に入るころから急激に増加。現在は約10万羽が生息しているとされる。

 増加に合わせて漁業被害も深刻化した。全国内水面漁連の平成20年の試算では、推定被害額は103億円。滋賀県の場合、28年度のアユなどの漁獲量が1千トンだったのに対し、カワウの捕食量は494トン。ピークの20年度は漁獲量1800トンを上回る2771トンが食べられた。

 フン害も軽視できない。琵琶湖の観光地・竹生(ちくぶ)島では一時、カワウに木の枝を折られた上、土壌を酸性化させるカワウのフンによって大半の樹木が枯れた。

 ■1羽5千円買い取り

 カワウ被害が全国で問題になったことから、環境省は19年、カワウを鳥獣保護法に基づく狩猟鳥に指定、特別な許可がなくても捕獲できるようにした。駆除したカワウを1羽あたり5千円で買い取っている漁協もある。さらに同省は26年、「被害を与えるカワウの個体数を2023(令和5)年度までに半減させる」との目標を設定した。

 県境を越えて広範囲に移動する習性上、対策には自治体間の連携が必要になる。滋賀県や大阪府など8府県と政令市で構成する関西広域連合は23年度から、個体数調査や効果的な対策の情報共有を図っている。

 同連合自然環境保全課の間野智也主査は「大規模な捕獲で総数が減り、被害が少なくなってきたという漁協も多い」と手応えを口にし、「分散しているねぐらの位置を把握し、対処すれば5年後に半減させる目標達成は可能。人間とカワウが共生できるような環境にしたい」としている。

Source : 国内 – Yahoo!ニュース

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