合同会社「巻組(まきぐみ)」は、東日本大震災の被災地・宮城県石巻市で、老朽化したり立地が良くなかったりするなど条件の悪い空き家を買い取ってリノベーションを施し、再生させる事業に取り組んでいます。2015年の設立以来、シェアハウスなどとして約35軒を100人以上に貸し出し、石巻に人材を呼び込んできました。さらに昨年、コロナ禍で活躍の場を失った若いアーティストらに生活と創作活動の場として物件を無償で貸す新事業「Creative(クリエーティブ) Hub(ハブ)」を始めました。「物々交換市」を開いて彼らは制作物を提供し、地域の人たちは古い衣服などを持ち寄り応援する仕組みです。「巻組」は何を目指すのか、代表の渡辺享子さん(33)にインタビューしました。(川野由起)
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――「巻組」は基本的に不動産業ですが、事業の面白さは何でしょう。
リノベーションやまちづくりでは、例えば廃れた商店街でも象徴的な場所を活用しようというのが定石です。一方で巻組は、資産価値のない物件を探してきて付加価値を生み出す。人を呼び、事業の芽を育てながら運用していく。課題を抱えた資源と、コロナで仕事がなくなったアーティストのような課題のあるユーザーを掛け合わせてプラスにするのは、珍しいですね。
――付加価値とは?
私たちは付加価値の「価値軸」をずらそうとしています。不動産の付加価値はセキュリティーや気密性だけではなく、集まる人と地域の交流で生まれるコミュニティーだったり、汚したり壊したりしてもいい、クリエーティブさを発揮できる「余白」だったり、と考えています。
――顧客ターゲットもユニークですね。
一般的な不動産業は、お金を出せる人に質の高いサービスを提供する高級ホテルのようなものか、シェルターや就労支援で住宅を低価格で供給するような事業です。私たちは、アーティストのような、お金は払えないけど事業のポテンシャルがあるよねという人に集中投資します。「本当にそんな人いるの」と言われますが、本当にいるので、それがすごいね、と(笑)。
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――自分たちで「価値付け」をしていくことを大切にされています。
「Creative Hub」の交換市では制作物の定価を決めず、来る方の裁量にお任せし「投げ銭」で支援してもらいます。アーティストを応援するからいくら出すとか、買う側の価値観が評価されます。
19歳の時に行ったバンコクで料金を交渉してタクシーに乗りました。買い手側も試されていると感じた。クレームが出ないように高度に契約化された社会で、自分で価値付けしたり能動的に何かをやったりという経験が少ないと感じます。市場に踊らされ、ものをどんどん捨てる一方で、必要ないものまで買わされる。
――事業の根幹はそこでしょうか。
それこそが空き家問題だと思っています。
歴史や文化的価値がある古民家…
2種類
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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