「ドライブ・マイ・カー」の4部門ノミネートでも注目される第94回米アカデミー賞の授賞式は、日本時間28日午前9時(現地時間27日)から米ロサンゼルスで開かれる。作品賞を中心に、注目作には「多様性」や「時代性」が色濃く反映されている。
最多12ノミネートの「パワー・オブ・ザ・ドッグ」は、カウボーイのマッチョな世界で周囲に恐怖と畏怖(いふ)を与えるカリスマ牧場主(ベネディクト・カンバーバッチ)を通して「男らしさ」の呪縛とゆがみをあぶり出す。メガホンをとったのは、1993年に「ピアノ・レッスン」で女性監督初のカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞したジェーン・カンピオン。
新鋭シアン・ヘダー監督の「コーダ あいのうた」は、耳の聞こえない両親と兄を持つ女子高校生が歌の才能を見いだされ、家族と夢の間で揺れ動く物語。フランス映画「エール!」のリメイクで、ろう者役に当事者俳優を起用したことも話題に。父親を演じたトロイ・コッツァーが男性ろう者として初めて助演男優賞候補となった。
テニス界のトップに立ったビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹の父親の実話を基にした「ドリームプラン」。型破りな主人公のアメリカンドリームは、人種の壁に立ち向かった歴史でもあり、主演男優賞候補にウィル・スミスの名前が挙がる。
スティーブン・スピルバーグ監督の「ウエスト・サイド・ストーリー」は名作ミュージカルをベースに、米国社会における移民、人種間の対立や分断、それを超えて生まれる愛を描く。他者との対話によって導かれる、喪失から再生への物語を紡いだ濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」は、パンデミックを経た世界の共感を呼んだ。
俳優としても活躍するケネス・ブラナー監督の「ベルファスト」は自らの幼少期を投影したモノクロの自伝的作品。69年の北アイルランドを舞台に、宗教的対立によって平穏な日常に暴力や衝突が入り込み、故郷を離れるか否か決断を迫られる家族を少年の目線から描いた。ウクライナでの戦禍が深刻化する今、切実に響く作品となった。
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」と「ドント・ルック・アップ」はネットフリックス作品、「コーダ あいのうた」はアップル・スタジオが配給権を取得、米国などではApple TV+で配信されている。コロナ禍を背景に配信の躍進が続くなか、配信メインの作品が初の作品賞を獲得すれば、アカデミー賞に新たな歴史を刻む。
その他の部門では国際長編映画、長編ドキュメンタリー、長編アニメーションの3部門候補となった「FLEE フリー」にも関心が集まる。デンマークで暮らすゲイの男性が、20年以上秘密として抱え続けた祖国アフガニスタンからの脱出と過酷な半生を打ち明ける物語。関係者の安全を守るためアニメーションで制作された異色の作品だ。(佐藤美鈴)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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