米国政府が日本に対し生食用ジャガイモの輸入解禁を求めていることを受け、ジャガイモ生産量全国一の北海道の産地から、交渉の行方を心配する声が上がっている。農家は輸入品による需給緩和や、病害虫の侵入リスクが高まる恐れから、危機感を募らせている。(望月悠希)
ニーズ応える努力が無駄に
米国政府は3月、生食用ジャガイモの輸入解禁を日本に要請。今後は植物検疫の対象病害虫を定め、それに応じた防疫措置を協議することになる。農水省は現時点で、協議の時期や詳しい内容などを明らかにしていない。 生食用ジャガイモの産地、ニセコ町。畑作・施設野菜経営の佐藤喬さん(44)は、経営面積37ヘクタールのうち8ヘクタールでジャガイモを栽培する。2016年の台風でポテトチップス用の芋が不足して以降は、加工用の栽培も始めるなど、ニーズに応じて生産してきた。 仮に米国産の生食用が入ってくれば価格面で太刀打ちできず、ジャガイモシロシストセンチュウなど病害虫の侵入も心配だという。佐藤さんは「ジャガイモは地域の基幹作物。作付面積の維持が地域を守ることにつながる」と話す。 倶知安町でジャガイモ14ヘクタールなど、畑作55ヘクタールを経営する中崎貴さん(41)は、堆肥による土づくりに力を入れ、輪作体系を崩さずに営農を続けてきた。道外のスーパーに出荷しているが「一度売り場を奪われると、取り戻せなくなる」と心配する。 収穫期の秋だけでなく、箱詰めや出荷など冬場の作業を用意し、従業員を定着させてきた。ブランド化で販売単価が上がるなど成果も出てきただけに「輸入品が入って価格が下落したら、これまでの努力が無駄になる」と話す。
交渉譲歩続き 「毅然」求める
北海道は、ジャガイモの作付面積が5万800ヘクタール(18年)と全国一だ。生食用は約3割を占める。両町を含むJAようてい管内では、ジャガイモ約3000ヘクタールのほぼ全てが生食用で、JA食用馬鈴しょ生産組合には約500戸が所属する。JAも「(輸入解禁で)病気や値崩れの懸念がある」と訴える。 これまで日本は、米国の要請を踏まえポテトチップス向けの加工用ジャガイモの輸入を条件付きで認めるなど、譲歩してきた。北海道農協畑作・青果対策本部は、生食用の輸入解禁は病害虫流入の危険を高めることから「国内の生産基盤が損なわれる恐れがあり、断じて容認できない」立場。国に対し、毅然(きぜん)とした姿勢で交渉するよう要望している。 農水省は「病害虫の懸念については科学的根拠を踏まえ、きちんと対応していく」と話す。 北海道大学農学部の東山寛准教授は「生食用の市場が小さくなる中、産地はブランドの形成に向け努力してきた。足を引っ張るようなことはすべきでない」と警鐘を鳴らす。
線虫リスク増
ジャガイモに寄生し枯死被害を引き起こすジャガイモシストセンチュウは4道県で、ジャガイモシロシストセンチュウは北海道で発生中。土壌消毒などによる緊急防除を講じてきたが根絶できていない。米国でも両害虫は発生しており、生食用輸入が解禁されれば、国内産地はさらにリスクを抱え込む。
日本農業新聞
Source : 国内 – Yahoo!ニュース