聞き手・藤田さつき 聞き手・岸善樹
新しい職場で新年度を迎えた人も多いでしょう。組織人になると、思うようにならないことばかりです。そんな時、思い切って辞めるか、しぶとく残るか。それぞれの春の決断を考えます。
半沢直樹が示す「辞められない理由」 「わたし、定時で帰ります。」の朱野帰子さん
総務省の不祥事で、官僚が相次いで辞職しましたよね。公務員にあるまじきことをしたのだから当然ですが、怖いな、とも感じました。彼らに「辞める」という選択権はあったのか? 組織に過剰適応した末にしっぽ切りされたのでは、と思ったからです。
思い出したのは「半沢直樹」です。昨年、続編のドラマが大ヒットするなかで、「こんな理不尽な目に遭って、なぜ銀行を辞めないのか」という見方も出ました。それで原作を読んでみたんですが、そこにはドラマにはあまり描かれていなかった「辞められない理由」が世代論を交えつつ、かなり具体的に書かれていました。
半沢が社会に出たバブル期、メガバンクの行員はエリートの象徴でした。待遇を保障されて安泰な一生を手にする一方で、銀行を出ればその看板は使えない、銀行の外では自分に価値はないという「刷り込み」がある。そう「半沢直樹」の原作には描かれていました。「銀行の悪いのは、(略)銀行員じゃなきゃ食えなくなるような恐怖感を煽(あお)ることだろうよ」と半沢の同期は語ります。
この意識は、「組織」に拠(よ)って生きている人たちに、ある程度共通するのではないでしょうか。会社が新卒から定年まで面倒をみるメンバーシップ型組織では、キャリアは上司の差配次第。バブル景気の頃に思い描いていたサラリーマン生活の計画が崩れ、会社では様々な理不尽な目に遭い、あげくに「上」がやったことの責任を負わされたりする。転勤や出向を命じられても断れない。それでも辞めることは「死ぬこと」に等しい――。組織の論理の内側で生きるなかで、そうたたき込まれてしまう。
しかしバブル後の氷河期世代を境に、この価値観は変わりました。就活で「組織」に拒まれ、やっと入れたのは非正規か長時間労働で心身を壊す職場だった。このままでは家庭も持てず、死ぬかもしれない。そんな状況から脱出し、「生きる」ために辞める人が増えました。
記事後半では、会社員生活33年の間に3回転職した企業研修講師・大杉潤さんが「どうしても合わなければ土俵を替えればいい」と辞めた決断に基づく心得を語ります。
ドラマ化された私の小説「わ…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル