30年以上勤めた水族館が無くなり、職を失った。「この年齢で今から別の仕事ができるのか」。そこに舞い込んだ新たな仕事は「ネコギギ」の保護だった。3年後のいま、元館長は……。
里中知之さん(57)。2021年3月末をもって51年の歴史に幕を下ろした近鉄系の志摩マリンランド(三重県志摩市)の最後の館長だった。日本大を卒業後、研究員として入り、マンボウなどの飼育を担当。01年には、上皇ご夫妻(当時は天皇、皇后両陛下)を直接、案内したこともある。
館長を任され、誘客に力を入れていたがコロナ禍で入館者数は減り続ける。20年12月、運営会社の社長に呼び出され、「(来年で)閉じることになった」と告げられた。苦しさと割り切れない思いの中、21年3月末、営業最終日を迎え、その後は、マリンランドにいた約450種7千点超の生き物を他の水族館へ移す業務に追われた。そして同年11月、完全に閉鎖した。
近鉄系の企業で営業を担う選択肢もあった。ただ同じ頃、三重県いなべ市で、絶滅の可能性がある淡水魚ネコギギの保護事業への参加という仕事が舞い込んだ。
ネコギギ
東海3県の川の中上流域のみにすむナマズの仲間。成魚で体長十数センチ。「清流のシンボル」と言われ、国の天然記念物に指定されている。河川工事などの影響で激減しており、環境省の絶滅危惧IB類に指定されている。
「培った技術をそのままいかすことができる。閉じる水族館はいくつもあるが、自分のようにこういう形で携われるのは珍しいケースだと思う。渡りに船だった」。肩書は国の制度を利用した「地域活性化起業人」で、近鉄系企業からいなべ市への派遣という形。志摩市に家族を残し、単身赴任を決めた。
いなべ市は06年度から、県…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル