点字に訳した楽譜の普及に取り組む「点字楽譜利用連絡会」(点譜連)。設立から15周年を記念したコンサートを4月に開く。実は、点譜連は上皇后美智子さまの寄付金をきっかけに誕生した団体。代表の和波孝禧(たかよし)さん(75)は「美智子さまを始め、多くの方の支援でここまで来られた。コロナ禍だが、聴く人が幸福な気持ちになれるような演奏会にしたい」と意気込む。
点字楽譜は五線を使わず、音の高さや長さ、指づかいなどを六つの点の組み合わせで示すもの。音楽を演奏する視覚障害者には欠かせないものだが、作成には専門知識が必要で、基本的にはボランティア団体などが演奏者の希望に応じて個々に作られている。
だが、そうした「オーダーメイド」の点字楽譜は他の人たちに共有されることは少なかった。視覚障害者は耳にした曲を演奏したいと思っても、その都度団体などに問い合わせて点字楽譜を提供してもらったり、自分で点訳を依頼したりする必要があり、つくられた点字楽譜がないか簡単に調べられる手段がなかった。
生まれつき全盲だった和波さんも、幼少期からバイオリニストとして活躍するようになるまで、多くの曲の楽譜は母が点訳したものだった。「共有してすぐに手元に置ける点字楽譜が増えれば、より世界は広がるのにと思っていた」
「公務は大変だけれど、癒やされました」 最初の出会い
そんな状況が変わったのは2005年。状況を知った美智子さまは、「点字楽譜のために」と自身の著書の印税などを寄付。点譜連の発足につながった。和波さんは「美智子さまのおかげで、点字楽譜はメジャーリーグに昇格できた」と振り返る。
和波さんと美智子さまとは長い交流がある。
最初の出会いは1981年、赤十字関係の行事だった。和波さんが演奏を披露したが、終了後、美智子さまから「公務はとても忙しくて大変だと思うこともあるけど、きょうの演奏で癒やされました」と声をかけられた。
その後、ピアニストで妻の土屋美寧子さんとともに皇居・御所に招かれ、美智子さまと一緒に演奏したことも。美智子さまは土屋さんに「ここのところが難しいんだけどどう弾いたらいいかしら」などとたずねるなど、和やかな雰囲気だったという。美智子さまは和波さんのコンサートにもたびたび足を運んだ。
「個人の所有物だ」 リスト化に反対する声も
だが、点字楽譜リストの作成には課題も多かったという。様々な団体が保管する点字楽譜を集めてリスト化するのは膨大な作業で、「あくまでつくってもらった個人の所有物だ」とリスト化に反対する声もあった。和波さんたちは「点字楽譜を公の財産に」と粘り強く説得を続け、発足から2年で最初のリストを発行した。13年には点譜連のホームページを開設し、簡単にネットでリストを閲覧できるようにした。
美智子さまはその間も活動を見守り続け、17年には「点譜連の集い」に出席。視覚障害者のフルート奏者らの演奏に聴き入り、「とてもよい音色でした」とねぎらった。点訳者にも「これからもよろしくお願いします」と声をかけたといい、「とても勇気づけられた」と和波さんは振り返る。
点譜連は20年で15周年を迎えた。和波さんは達成感を感じつつも、次代への継承が今後の課題と考えているという。
4月18日に東京文化会館(東京都台東区)でコンサートを開催。視覚障害のある音楽家7人を含んだ13人が、宮城道雄の「春の海」やブラームスの「弦楽六重奏曲第2番」などを演奏する。和波さんは「これまでの感謝と、さらなる普及への思いを込める。点字楽譜をもっと知ってもらえる機会にもしたい」という。
コンサートは全席指定で、入場料は一般4千円、学生2千円。チケットはラビット(https://shop.rabbit-tokyo.co.jp/concert0418/)や「イープラス」「チケットぴあ」「ローソンチケット」で購入できる。(杉浦達朗)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル