東日本大震災で家族を亡くした人の心の声に、耳を傾け続ける夫妻がいる。社会学の研究者の夫と、震災で母と祖母を失った妻。遺族の証言集の制作を通して出会い、心の距離を縮めた2人は、自分たちで新たな記録集を作り始めた。
1月初め、盛岡市に住む70代女性の自宅を、野坂紀子さん(48)と真さん(36)が訪れた。
女性は岩手県釜石市にあった自宅を津波で流され、夫を亡くした。「あのころは優しく声をかけられるのもつらかった」とうつむくと、紀子さんは「まだ現実を受け入れられない時期でしたね」とうなずき、隣の真さんが書き取る。女性は「紀子さんがいると安心するわ」と話を続けた。
紀子さんは大槌町の実家が津波に襲われ、母の美代子さんが行方不明になった。祖母の百合子さんはがれきの中から助け出されたものの、救急車で搬送中に息を引き取った。
早稲田大講師の真さんは、今後の災害で家族を亡くす人の「心の復興」に役立てたいと、震災遺族の心情を聞き取り、研究に生かそうとしている。
2人が出会ったのは、震災3年後の2014年。犠牲者の当時の行動や人となりを遺族から聞き取る、大槌町の「生きた証」プロジェクトでだった。
犠牲者を二度と出したくない…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル