未解決のまま発生から19年が過ぎた世田谷一家殺害事件は、遺族が異例の現場住宅の室内の公開に踏み切った。警視庁から打診を受けた取り壊しが現実味を増す一方で、室内には壁に書かれた子供たちの背比べの跡など、4人の生きた証しが残る。「警察から十分な説明がない状況では取り壊しは決断できない」。遺品を収めた段ボールの山を前に、遺族は苦悩を続けている。(村嶋和樹)
「ギィーッ」。殺害された東京都世田谷区上祖師谷(かみそしがや)の宮沢みきおさん=当時(44)=の妻、泰子さん=同(41)=の姉、入江杏さん(62)が玄関を開けると、老朽化を物語る鈍い金属音が響いた。みきおさんが1階の書斎として使っていた室内には壁に沿って小型の段ボールが5段ほどずつ積まれている。
蓋が開いた箱からのぞいていたのは、長女のにいなちゃん=同(8)=が履いていたピンクの長靴。入江さんは「大雪が降ると、昔はみんなで雪合戦だった」と懐かしむ。
■床に黒い染み
警視庁から取り壊しを打診され、「事件解決前に解体していいのか」と葛藤を続けてきた。鍵の返却を受け15日に室内に入り、山積みの段ボールにショックを受けた。「引っ越し前の準備段階のようだ」
1階奥の階段手前で、刺殺されたみきおさんの遺体が見つかった。発見時、そばにあった棚の引き出しをかぶせられるような格好で倒れていたが、棚は引き出しが抜かれた状態で残る。
階段を上った中2階の踊り場では、刃物で襲われた泰子さんがにいなちゃんをかばうように倒れていた。床に黒い染みのような跡がはっきりと見て取れ、入江さんはおえつを漏らした。
犯人はこの中2階にある浴室の窓から侵入したとみられ、首を圧迫されるなどした長男の礼君=同(6)=の遺体は同階の2段ベッド下段で見つかった。入江さんはよく礼君を膝の上に乗せて、絵本の読み聞かせをしていたことを思い出す。ベッドを前に涙をこらえることができず、持参した花を手向けた。
2階は一家だんらんの場だった。「99・12」「2000・8」。壁にはにいなちゃん、礼君の背比べの記録があり、時期と名前の頭文字とともにたくさんの横線が引かれ、ウサギの絵も添えられていた。「生きていたら、どんな子供たちになっていたのかと思う」(入江さん)
■犯人像は描けず
犯人は一家殺害後、引き出しの中身を物色し、書類をはさみで切って浴槽に入れた。スプーンを使わずにアイスをかじるなど長時間滞在。犯人の指紋、掌紋が残され、A型の血液、DNA型も検出された。
帽子、マフラー、ヒップバッグが置かれるなど多くの遺留品があり、当初は犯人特定は「時間の問題」とみる向きがあった。しかし、警視庁は一家の友人、知人、仕事関係者、近隣住民らの指紋と照合する作業を重ねたものの、犯人とは一致しなかった。遺留品の製造時期などから「犯行当時15歳~20代くらいの細身の男」と推定し、身長は170センチ前後だったとみている。足跡から靴は日本で販売していない27・5センチサイズの韓国製と判明した。
捜査関係者内で韓国人犯行説もささやかれてきたが、昨年、凶器の包丁の柄を包んでいたとみられるハンカチに関してフィリピン北部で同様の包み方をするとの具体的な情報が複数寄せられた。遺留品から「点」は浮かぶが、明確な犯人像の輪郭は描けていない。
入江さんは記者が現場で実感したことを報道し、広く世間に伝わることが事件解決につながる力になると信じている。取り壊しの岐路に立ち、「家を訪れるのはもうこれで最後になるかもしれない」と苦しい胸の内を吐露した。
◇
世田谷一家殺害事件
平成12年12月30日深夜、東京都世田谷区上祖師谷の会社員、宮沢みきおさん(44)方で発生。みきおさんと妻の泰子さん(41)、長女のにいなちゃん(8)、長男の礼君(6)=年齢はいずれも当時=が包丁で刺されるなどして殺害された。7年の八王子スーパー強盗殺人事件、8年の柴又女子大生殺人放火事件と並び警視庁管内の「平成の三大未解決事件」とされ、三大事件の中では唯一、現場建物が残っている。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
Leave a Comment