能登半島地震では、様々な事情や理由から、自治体があらかじめ定める「指定避難所」ではなく、近所の集会所などを自分たちで「自主避難所」にして生活する被災者が多くいます。今後の大災害に備えて、私たちは避難先をどう考えればいいのでしょうか。災害時の避難行動に詳しい京都大防災研究所の矢守克也教授=防災心理学=に聞きました。
――能登半島地震では、たくさんの被災者が集会所などに自主的に避難所を作りました
私も現地にいたら、そうしたと思います。
2016年の熊本地震では、義母が被災しました。心臓病を含めて複数の持病があるため、指定避難所には行かないほうがいいと電話で指示し、発生から約24時間後に迎えに行きました。
私が到着するまで、義母は近隣の方々などの協力を得て安全な場所を求め、①近所の住民の車内、②近隣の大規模商業施設内に設けられたテント、③ホテルが開放した広間、④私立高校の武道場――と4カ所を巡り、それぞれ数時間ずつ過ごしました。
これは決して、例外的なケースではなかったはずです。被災者は生きるために少しでもよい環境を見つけようと、できることは何でもします。これからの災害でも、同様のことは必ず起きます。
自治体があらかじめ指定した避難所にだけ被災者が来る――というストーリーは、現実的ではありません。
逆に、今回の地震でそうだったように、今後の災害では、帰宅困難者や外国人観光客など、行政側が来るとは思っていなかった被災者が指定避難所に大量に押し寄せることも大いにありえます。
――自治体は自主避難所から、指定避難所や、ホテルなどの2次避難所に移るよう促しました
避難場所や避難生活のあり方は、非常に複線的です。自治体は、避難生活は「各地区ごとに指定避難所で」といったこれまでの原則を見直し、「多様な避難先(分散避難)」に対応するよう、かじを切るべきです。
――行政ができる「分散避難」の備えはありますか
まず、「分散避難は当然起こる」という認識が必要です。
例えば、京都府福知山市では指定避難所とは別に、地区避難所という「地域の判断で開設し、運営する施設」をあらかじめ定めています。
自治体がマネジメントする「指定避難所」とは別に、地区避難所のように、住民に任せるけど自治体側もあらかじめ存在を把握しておく、「準指定避難所」というカテゴリーを作ってはどうでしょうか。
さらに、自治体の想定以上に独自に避難所や避難先ができることを念頭に、情報収集ができる仕組みを用意すべきです。
熊本地震では、住民の避難先を特定するため、携帯電話の通信記録から、人が多く集まっている空き地や駐車場などを調査する試みがありました。在宅避難者や広域避難者からの情報を、自治体側に報知できるWEBシステムを導入することも有用でしょう。
避難所の運営についても、市町村単位で考えていては、今後予想される南海トラフ巨大地震のような大規模災害には対応できません。広域的に対応する仕組みに少しずつ変更することが、帰宅困難者や観光客らへの対策としてもきわめて重要です。
――私たちができる備えはありますか
指定避難所ではない避難所や避難先には、小規模な自治体だと、災害時に支援物資などのケアが行き届かない可能性があります。
私たち住民側も、「避難先は自分たちで模索しておくべきもの」という覚悟や準備が必要ではないでしょうか。友人宅や親戚宅、勤務先、ホテル・旅館など多様な可能性を模索して、普段から「シミュレーションお泊まり」をしても良いでしょう。(聞き手・島脇健史)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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