脳研究者が説く苦手な教科対策は「寝る前に勉強」 昼間はぼーっと

受験する君へ 脳研究者・池谷裕二さん

 脳は情報の入力と定着を同時にできない不器用なところがあります。寝ないと、情報を整理整頓する猶予が与えられないのです。

 苦手な教科こそ寝る前に勉強しましょう。特に寝る直前に勉強した内容は記憶の定着がよくなります。かつては暗記ものがよいとされましたが、現在はなんでも大丈夫です。煮詰まるまで勉強し、できなくてふてくされてもやってみます。念のため、起きてから確認に取り組んでみてください。

いけがや・ゆうじ 1970年、静岡県生まれ。東大大学院薬学系研究科教授。薬学博士。脳研究者。著書に「脳はすこぶる快楽主義」(朝日新聞出版)、共著に「脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか」(講談社)など。

 昼間でもボーッとすることがあります。あの瞬間、実は脳が整理整頓をしています。受験勉強と言えば長時間に及ぶことを想像しがちですが、情報の入力の時間を設けたら休憩を入れます。

 しかし、休憩時間にゲームやテレビ、音楽でリラックスしたくなるところですが、この行為は入力モードになります。ただひたすらボーッとします。何もせず、苦痛ではありますが、寝ることと同じ効果があります。決して怠けているわけではありません。アイドリング思考と言って、これも勉強の一環です。3時間続けて勉強しても、ボーッとした休憩を挟まないと、最初の1時間は定着しません。

 入力した内容を思い出すプロセスも重視します。出力することが大事です。古代からさまざまな勉強法がありますが、出力による定着に勝る方法が今のところ見つかっていません。人類史上最も効率のよい方法なんですね。勉強したことを周囲に説明してみてください。意外と、わかっていたつもり、にとどまっていることが少なくありません。試験で大切なことは、どれだけ覚えたかではなく、どれだけ思い出せるか、です。

 出力は記憶の定着だけでなく緊張への耐性を生みます。たとえば音楽は出力の練習です。ピアノで言えば、頭の中に入っている音楽を指を通じて形作ります。コンクールの本番では緊張し、頭が真っ白になっても弾けてしまいます。出力の練習をしているからです。

 受験当時を思い出すと、部屋を移動しながら勉強していました。勉強机、ちゃぶ台、そしてリビングのテーブルと、3カ所で勉強するようにし、歩きながら覚えていました。脳の研究を始め、環境を変えると脳の海馬からシータ波が出て定着がよくなることを知り、ずいぶんと科学的なことを実践していたのだと納得しました。

 そして、一日の勉強量をノルマにし、毎日歯を磨くように日常に落とし込み、感情を挟むことなくこなしました。面倒くさくなくなるのがルーチンの利点です。

 周期表、百人一首、英単語と、友人と一緒に語呂合わせで覚えていきました。特に英単語は何千と語呂合わせで覚えました。当時は読書量もないので、ただ覚えていきました。「出る単」は東大受験のときに新幹線で初めて見ましたが、知らない単語はありませんでした。買って損をしたと思ったほど、英単語は頭に入っていました。私は国語が苦手だったので、英文から類推することができませんでした。だから、覚えて対処するしかありませんでした。

 東大理科Ⅰ類と京大理学部を受験しましたが、京大は不合格でした。自由な雰囲気の京大に憧れていました。受験前年に京大出身の利根川進さんがノーベル医学生理学賞を受賞し、京大人気が上がったことで、競争倍率が高かったのも不利になりました。結果、東大に進みましたが、入学後に学部を選択できたことが、現在の研究につながりました。

 自動車整備会社を営んでいた父親は、後継ぎ候補の私に、中学時代は工業高校、高校に進むと工業大学に進んでくれると思っていたそうで、東大進学には不満だったそうです。

 東大入学後は、有機化学に興味があり、磁石を作りたかったので、レア金属に頼らずに有機物で磁石を作る研究をしているゼミに進むつもりでした。ゼミへの最終希望を募っていた矢先、おばが亡くなった知らせを受け、静岡に戻りました。ガンに侵され、若くして進行も早かったそうです。

 数カ月前に会話を交わしたおばを目の前にし、病気を治す薬はなかったのか、という気持ちに駆られ、薬学部に進もうと決めました。しかし、薬学の勉強をしてこなかったので、苦労しましたが、脳を研究テーマにしたころから、選択してよかったと気づきました。脳と言えば、感情を生み出したり心を動かしたりと、生命を生み出す本質として大切な体の一部と考えますが、私にとっては、よくできた精密機械やコンピューターに見えました。この視点の違いが研究のユニークさを生み、唯一無二の立ち位置ができました。

 受験はつらいです。しかし、この理不尽な状況に置かれても、どれだけ適応してくれるかを測っているんですよね。将来、大人になって、公平でもなく、納得できないこともたくさんあるし、理不尽な上司もいます。そんな時に、頭の中で納得できなくても、適応力をもって立ち回れる人っていいですよね。

 これから順風満帆どころか、いろいろ壁が出現します。壁が現れたとき、「またこの壁が出てきた。でも織り込み済み。どうやって乗り越えようか」と適応し、まるでロールプレイングゲームのように楽しんでみる。合格か不合格かが気になるところですが、大切なのは結果を求めるのではなく、プロセスを楽しむことです。楽しむと情報の吸収も早く、脳の定着も早いです。目の前の難題を快感に思えるかどうか、です。受験は身の危険のない壁だと思います。(聞き手・前田伸也)

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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