戸田和敬
脳死と診断され、肺を提供した男児(当時1)の両親が、移植手術の様子を事前説明なくテレビ番組で放送され、精神的苦痛を受けたとして、TBSと手術をした岡山大学病院などに計1800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が28日、広島地裁であった。森実将人裁判長は「社会通念に照らし、受忍限度を超えるものとまではいえない」と判断し、請求を棄却した。
判決によると、番組の制作会社は2016年12月、病院から肺移植手術の密着取材を許された。先端医療に取り組む医師や医療現場を取り上げた特集番組として17年7月に全国放送した。番組では男児の肺の映像を加工せずに流したほか、執刀医が「非常に軽くて、いい肺でした」と発言する場面も含まれていた。
両親は「我が子の臓器を見せつけられ、臓器提供を決断したことへの迷い」が生じたと主張。受忍限度を超えて心の平穏が乱され、静かに故人をしのぶ権利が侵害されたと訴えていた。
判決は「幼い我が子の臓器を提供するという想像を絶する重い決断をした親の立場に立てば、葛藤のはざまに立たされたと思われる」と指摘。ただ、番組の目的には相当性があり、肺の映像をそのまま放送することには相応の社会的意義があるとし、発言内容も「男児を冒瀆(ぼうとく)、卑下する趣旨とは認められない」などと判断。相当性を欠くとはいえないと結論づけた。
判決後、男児の母親は代理人弁護士を通じて「言葉がありません。今は何も頭に入ってきません」とのコメントを出した。TBS広報部は取材に「当社の主張が認められたものと理解する。今後も制作や放送に細心の配慮を行うことを徹底していく」とした。(戸田和敬)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル