自死した娘、直前の会話を後悔する母 立ち上げたNPO

 10年前、長女(当時25)は自ら命を絶った。母親は助けてあげられなかった後悔を胸に、自殺予防に取り組むNPO法人を運営する。コロナ禍のいま、急増する悩み相談に耳を傾け続けている。娘のような思いはさせまい、と。

 「コロナを理由に解雇され、生活が苦しい」「巣ごもりが続いて相談できる人がいない。死にたい」

 広島市西区のNPO法人「小さな一歩・ネットワークひろしま」には昨春以降、こんな相談が相次いでいる。電話やLINEを中心に全国から寄せられ、1日平均で約150件。例年の倍だ。

 相談者は7割が女性。人と話す機会が減ってうつ病になったり、自宅にいる時間が増えた夫からの家庭内暴力(DV)に苦しんだりと、コロナ禍の前にはなかった内容が多いという。

 「コロナ禍で、心の不安を抱える相談者が増えた」。代表の米山容子さんはそう感じている。うなずきながら耳を傾け、1時間を超えても電話は切らず、「相手の気持ちが落ち着くまで、ゆっくり話を聞く」。その理由は、自死した長女の歩美さんに対する、後悔にある。

「話を最後まで聞いていたら」

 2011年4月。歩美さんは恋人との人間関係に悩み、うつ状態を伴う「身体表現性障害」を患った。大量の薬を一度に飲み、何度も病院に運ばれた。米山さんが身の回りの世話をする日々。歩美さんは口癖のように「死にたい」と言った。

 6月。大量の薬を飲んで、再び倒れた。米山さんはしびれを切らし、「いい加減にしなさい」ときつく言った。目を離した隙に、歩美さんは自宅近くのマンションの3階から飛び降りた。脳死状態。そのまま7日後に亡くなった。

 米山さんは自分を責めた。「叱らず、優しく受け入れていたら」「話を最後まで聞いていたら」――。

 そんな思いから、統計調査会社を経営するかたわら、社会福祉士の資格を取った。娘の死から4年後の命日にNPOを設立。悩み相談を傾聴するほか、自死遺族同士が気持ちを語り合える会を開催してきた。

 葛藤はあった。自分の娘を助けられなかった人間が、他人を救えるのか。自分が「傲慢(ごうまん)」だと感じ、何度もやめようと思った。

 しかし、コロナ禍が始まると、歩美さんと同年代の女性からの相談が増え、「死にたい」という言葉をよく聞くようになった。10年前の歩美さんと、重なった。「もう後悔はしたくない」。自殺を考えるほど苦しむ人がいる限り、活動を続けようと思った。

 厚生労働省によると、昨年、国内で自ら命を絶ったのは2万1081人。11年ぶりに増加した背景にはコロナ感染拡大の影響もあるとみられ、女性や若い世代の増加が目立った。歩美さんと同じ20代も前年比で2割増えた。感染の収束が見通せない中、自殺者がさらに増え続けるのではないかと、米山さんは危惧する。

 「思い悩む心と、相談する勇気を受け止めたい」。歩美さんから、人生の宿題をもらったと感じている。(福冨旅史)

主な悩み相談窓口

◆小さな一歩・ネットワークひろしま

090・1352・2377

(平日 午前10時~午後5時)

◆広島いのちの電話

082・221・4343

◆よりそいホットライン

0120・279・338

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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