自衛隊員の自殺者に関する文書の開示請求に対し、防衛省がほぼ黒塗りで開示したのは情報公開法に反するとして、札幌市の弁護士が自殺者の氏名をのぞく部分の開示を求めた訴訟の控訴審判決が9日、札幌高裁であった。大竹優子裁判長は、一審・札幌地裁が公開を命じた情報のうち一部について個人を識別できるとして、命令を取り消した。
原告側は「自衛隊という実力組織の監視を妨げるもので、不合理な判決だ」と批判し、上告を検討するとしている。
原告は佐藤博文弁護士。南スーダンの国連平和維持活動(PKO)への陸上自衛隊派遣は憲法違反だとして、千歳市の陸自隊員の母親が訴えた訴訟で代理人を務めている。
裁判では、公開される情報によって自殺した隊員が特定されるかが焦点となった。今年1月の一審判決は、陸自北部方面隊で自殺した隊員の海外派遣歴や入隊後の年数、配偶者の有無など20余りの項目の開示を命じた。
一方、高裁判決は一審判決が開示を命じた学歴▽出身地▽家族構成▽海外派遣歴▽死亡推定時刻▽自殺の方法などについて「親族や同僚の持つ情報と照合すれば個人を識別できる」と判断し、命令を取り消した。
大竹裁判長は項目ごとに判断理由を説明。学歴情報については「高校を中退した人が少ないから、出身や家族構成など他の情報と照らし合わせると個人の特定が可能」と指摘した。出身情報についても「年齢などの情報から個人特定につながる」とした。
一方、既婚か未婚か、入隊後年数などについては「どのように個人特定につながるか具体的に明らかではない」として開示を命じた一審判決を支持した。
原告側は控訴審で、過去の報道例などから開示を求めた情報には「秘匿の必要がない」と主張したが、大竹裁判長は自殺に関する個人情報が「慣行として公にされるものではない」として退けた。
判決後の会見で、原告代理人の池田賢太弁護士は「知る権利に背を向けたというほかない」と判決を批判。自衛隊内で自殺が相次いでいることに触れ、「国家機関を監視する観点から、公人と私人の扱いは分けて考えるべきだ」と訴えた。佐藤弁護士は「判決は国の説明をうのみにした。納得がいかない」と語った。
防衛省は「国の主張が一部認められなかったものと受け止めている。判決内容を慎重に検討し、対応する」との談話を出した。(平岡春人)
開示命令が取り消された情報
・自殺した曜日、月
・学歴
・自殺の手段、方法
・死亡推定時刻
・出身地
・配偶者の有無
・海外派遣歴
・家族構成
・単身赴任をしているか
・遺書(一部)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル