昆虫を捕って食べ、イノシシを狩り、野草をいただく―。中国山地に溶け込んで暮らしている女性がいる。広島県北広島町にIターンした保育士の束元(つかもと)理恵さん(24)だ。「昆虫食」はもの珍しく思われがちだが、それも自然を楽しむ大切なメニューの一つ。束元さんにとって、取り巻く北広島の野山は楽園だ。
秋晴れの9月半ば、愛用の虫籠を腰に着けた束元さんが、ススキの揺れる野原に繰り出した。
長靴を履いて湿地に入ると、チキチキチキ―と音を立てて何かが飛んだ。「あっ、ショウリョウバッタ。素揚げはエビみたいな味がしておいしいですよ」。両手で包むように捕まえた。腰をかがめ、束元さんは次の獲物を追う。すばしっこくて意外に手ごわい。「イナゴです。甘いような、ふわっとした優しい香りがします」。指でつまみ、虫籠に入れた。
ショウリョウバッタやイナゴを約10匹捕らえたところで、束元さんが住む平屋のキッチンで調理する。まずは下処理。バッタを入れた虫籠にシンクで熱湯をかける。弱った虫を籠から取り出し、口当たりの良くない足や羽を指でもぐ。
メニューは「バッタとタマネギの甘辛炒め」。タマネギをみじん切りにし、塩こしょうとナンプラー、砂糖を加え炒める。そこに下処理済みのバッタを6匹投入し、赤くなったら出来上がりだ。
さらに束元さんのこだわりがある。パンは、自身が種から育てた小麦を石臼でひいて、こねて、焼き上げた自家製。バッタの炒め物を載せて食べると「麦畑の匂いがする」とほほ笑む。
昆虫は素揚げでもおいしいという。赤くなるまで油で揚げ、そのままか塩を振って食べる。カリッという音に、サクサクした食感。「バッタは草の匂いが鼻に抜ける感じ。アゲハチョウを揚げると、花の香りがします」。他にもいろんな昆虫をいただく。食味はというと、セミの幼虫は中がふわふわして油揚げの食感、カブトムシはクリのような木の香り。「身近な昆虫は食べて安心感がある。自分の手でおいしく料理して、残さず食べるのが、私なりの虫への感謝です」
昆虫食は、世界では牛や豚に代わる有望なタンパク源として注目されている。人口増に伴い、将来的な食料不足への懸念は強く、国連食糧農業機関(FAO)も推奨している。昆虫食の機能性を研究する山口大農学部の井内良仁准教授(52)=食品機能化学=は「大半の昆虫は、生食せず加熱すれば衛生面はほぼ問題ない」とし、「抗酸化作用や痩せる効果など興味深い結果も明らかになってきている」とその力を評価する。
実は時代の最先端かもしれない束元さんの食生活。今どきの呼び方をすると「昆虫食ガール」ですねと本人に言うと「自然を食べる一つなんですけどね」と笑う。勧められて記者も、イナゴを食べてみた。「アウトドア派」を自負しながら、虫を食べるのは初挑戦。こわごわと口に入れると、味はまさにエビだ。続いてショウリョウバッタをお代わり。これもおいしい。食わず嫌いを恥じた。(桜井邦彦)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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