本格的なコーヒーをいれると必ず出るのが、コーヒーかす。これを喫茶店や各家庭を回って無料で回収している夫婦が、京都にいる。コーヒー好きにもほどがある? いやいや。かすにはまだまだ、使い道があるのです。(原田達矢)
夫婦は、西陣エリアの京都市上京区実相院町に住む米国人のゲーリー・ブルームさん(55)と妻の順子さん(46)。
ゲーリーさんは、週の半分は午前6時半に自宅を出る。荷車付きの自転車で向かうのは上京区と北区のなじみの喫茶店だ。
開店前だが、どの店主もゲーリーさんにはドアを開く。取材で同行した2日、店主らは「いつもありがとうね」とゲーリーさんに笑顔でバケツを差し出してきた。中はコーヒーかすでいっぱい。1時間半ほどかけて自宅に戻ると、「これだけ集まれば、農家さんにまた渡せますね」と満足げだった。
夫妻がコーヒーかすを集めるのは、肥料として再利用する取り組みのためだ。その名も「mame―eco(マメエコ)プロジェクト」。コーヒー豆と「小さな取り組みから大きく広がってほしい」という二つの意味を名前に込め、昨年5月に始めた。
きっかけは家庭ごみについての京都市のチラシを見たことだった。環境問題に関心があるゲーリーさんは、ごみの削減率が年々減っていることが気になり、「家でもごみを減らしたい」と考えた。
目を付けたのが、毎日6杯以上飲む大好きなコーヒーのかす。インターネットで活用法を調べると、農業の肥料などに使えると知った。「これほどの価値があると、多くの人に知ってもらいたい」
ネットの掲示板で、かすを必要とする人を探すと、亀岡市の農園が「20キロを集めてほしい」と要望を寄せてくれた。夫婦で市内の喫茶店を回って集め、届けたのが始まりだ。
順子さんが「営業」活動で開拓したり、知り合いからの紹介もあったりで、今は上京区や北区の喫茶店やホテルなど約50店が回収に協力。地域の人からコーヒーかすを集める回収ボックスも市内4カ所に設置している。月に1トンほどが集まるという。
北区のカフェ「マナイア コーヒーアンドシングス」は、かすを持ち寄ってくれた客の飲み物代を値引きしている。代表の前田潤一郎さんは「常連客がよく持ってきてくれる。地元を巻き込み、一緒に活動できるのは楽しい」と話す。
かすを農業に活用しているのが亀岡市の王子楽遊農園だ。毎月数回受け取り、土壌改良や害獣、害虫対策として植物の周りにまいている。かすを通じて前田さんと知り合い、カフェで出すお菓子用の米粉を提供してもいる。農園リーダーの奥村ふみえさんは「プロジェクトをきっかけに、つながりができた。もっと広がってほしい」と話す。
ゲーリーさんは京都在住20年以上。京都以外でも「コーヒーかすを捨てるの、もったいないな」と当たり前に言われる日を夢見る。ただ、自転車で回れる範囲には限りがある。「まずは知ってもらい、たくさんの人と一緒に活動したい」と話している。
マメエコのホームページ(https://mame-eco.org/
総務省統計局の「家計調査」によると、京都市の2人以上世帯のコーヒー消費量(豆や粉末)は、2018年~20年の3年平均で3562グラム。全国の県庁所在地や政令指定都市の52カ所(東京都区部含む)の中でトップだ。また、同期間の年間消費額も平均8583円で全国1位を誇る。
古都・京都でコーヒーがなぜ、そんなにも人気なのか。
京都府内の事業者でつくる京都珈琲商工組合の園田高久専務理事は「京都は商売人も多くて、新しいもの好き。戦後に神戸で流行したコーヒーを、すぐに面白がって飲むようになったと聞いている」。学生が多いことも理由の一つといい、「学生さんが授業の空き時間に喫茶店を利用し、コーヒーをたしなむことも消費を下支えしてきたと思う」と話した。
京都をはじめ、全国でたくさん飲まれているコーヒー。そこから出るかすには、どんな使い道があるのか。家庭での利用方法や今後の活用法について、コーヒー大手のUCCホールディングス(神戸市)の担当者に聞いた。
「抽出かすの特徴の一つは、高い消臭効果です。乾燥させなくても、そのまま脱臭剤として使えます」
そう教えてくれたのは同社サステナビリティ推進室の関根理恵さん。かすを生ごみに混ぜたり、自宅のトイレに置いたりするだけで、あっという間に臭いの元のアンモニアを吸収し、その効果は数日間続くそうだ。
脱臭の秘密は、かすの表面に…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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