「金沢の奥座敷」と呼ばれる温泉地に足しげく通い、10年にわたって「愛」を育んでいる人たちがいる。加賀藩主も通ったという由緒ある温泉地は、竹久夢二が愛人と滞在したことでも知られる。新型コロナ下でも彼らを温泉地に向かわせるのは、アニメ愛、そして――。
兼六園や金沢21世紀美術館など、観光客でにぎわう金沢市中心部から車で20分。静かな山里に湯涌(ゆわく)温泉はある。旅館は9軒。土産物店や商店が点在するが、半日もあれば、街を一巡りできる。
その小さな温泉地を年10回も訪れるのが、神奈川県在住のシステムエンジニア吉田匡さん(46)。「10年前から湯涌の人たちは僕らの趣味や存在を温かく受け入れてくれた。恩返ししたいんです」
10年前の2011年、吉田さんらと湯涌温泉を結びつけたアニメ「花咲くいろは」の放映が始まった。
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東京で暮らす女子高生・松前緒花(おはな)は、母の都合で突然、祖母が経営する「湯乃鷺(ゆのさぎ)温泉」の旅館で仲居として働くことになる。やりたくて始めた仕事ではなかったが、板前見習いとして住み込みで働く同級生の鶴来民子(みんこ)ら旅館の人々と関わることで、一緒に働く仲間や仕事を好きになっていく。
その温泉街のモデルが湯涌温泉だった。
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もともとアニメ好きだった吉田さん。キャラクターのかわいさはもちろん、旅館の経営難などリアリティーのある設定や、働くことの大変さが丁寧に描かれていることに共感したという。舞台の描かれ方も、聖地がある作品の中では「トップクラスの再現度」と断言し、「そこにある現実かと錯覚し、引き込まれる」と絶賛する。
それもそのはず。制作した富山県南砺市のアニメ会社「ピーエーワークス」は、何度でも足を運んで確認できるよう、物語の舞台を北陸と決めていた。そして、絵になるスポットが多く、静かな雰囲気の湯涌温泉を堀川憲司代表が気に入り、選んだという。
実際に作品を見てから街へ行くと、その再現度に驚く。街の入り口に立つのは、アニメのオープニングなどに登場する茶色の案内看板。左手には、緒花の同級生で同じく「旅館の孫」の和倉結名の旅館のモデルになった宿が見える。緒花が働く旅館のモデルとされる建物こそ数年前に取り壊されてしまったが、商店や宿が並ぶ通りも、稲荷神社も、商店前のベンチも、アニメを通して「見慣れた」光景が広がる。どこかから緒花が走って来るような気さえする。
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温泉街にそぐわないのでは、という心配
だが、地元が最初から賛成一色だったわけではない。
湯涌温泉観光協会の山下新一郎…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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