芸能人が所属事務所を移籍する際のトラブルを防ぐため、移籍する際、金銭を補償する制度が導入されることになりそうだ。NHKなどの報道によれば、国内最大の業界団体「日本音楽事業者協会」(音事協)が予定しているもので、契約書のひな型を見直すという。
近年、所属事務所の移籍に伴って、前事務所とトラブルになるケースが相次いでいた。俳優のん(本名・能年玲奈)さんがテレビ出演しない背景には「芸能界の圧力がある」との見解を現在の事務所が表明し、話題になったことも記憶に新しい。
8月には公正取引委員会が、独占禁止法上の問題などを業界団体に周知するなどの動きも始まっている。芸能人の権利問題に詳しい佐藤大和弁護士に見解を聞いた。
●移籍金の金額が不合理であれば、新たなトラブルとなる恐れ
私も従来から移籍金制度導入に積極的な立場であり、私が作るマネジメント契約書では、移籍金制度を導入しています。今回の芸能人の移籍について金銭補償制度を導入する動きは賛成です。
従来から、芸能人らが芸能事務所を移籍もしくは独立する際、芸能人と芸能事務所がトラブルになることが多くありました。
その背景の一つとして、移籍等をされてしまった場合、芸能事務所が芸能人の育成にかけてきた費用を回収することができないという事情がありました。
そのため、今回の移籍金導入制度は、そういった芸能事務所側の問題を解決するとともに、芸能人がスムーズに移籍等をすることができるきっかけになると思っています。
もっとも、今後、移籍金の金額が不合理なものになった場合には、新しいトラブルを生みかねないと懸念しています。そのため、移籍金の計算方法については合理性及び透明性が重要になってくると思っています。
この点が解決しなければ、移籍金制度は、実質的に芸能人の移籍を妨害する制度になりかねません。
●「一生芸能活動をしない」覚書を交わすケースも
音事協は、大手芸能事務所の多くが加盟する芸能業界で最大の業界団体であり、その音事協が「芸能人が安心して活動するため」に移籍金制度を導入したことは、業界内において、大きなインパクトがあると思っています。
現在、芸能人が独立・移籍するうえで、不当な圧力をかけたり、嫌がらせをしたりすることが多くあります。なかには、芸能人らに数年間もしくは一生芸能活動をしないという覚書を締結することを強要したり、テレビ局側が忖度し出演できなくなったりするケースもあります。
中小の芸能事務所では、そういった動きもまだまだ多くあるため、中小の芸能事務所においても、芸能業界において自由かつ公平な競争がされるよう、移籍金制度の導入を積極的に検討すべきだと思っています。
●「エンタメ業界、ルールを定める法律は不可欠」
前記のとおり、現在、芸能人の独立や移籍の際、芸能事務所側が不合理な契約内容に基づいて芸能人の芸名や活動制限をするケースや、芸能人らのSNSアカウントを制限するケースも多くあります。
私は、芸能事務所が移籍等をする芸能人の芸名やSNSアカウントを制限することは、特段の事情がない限り許されるものではないと思っています。
この点については、私も裁判で争っていますが、芸名等について「芸名なんて変えれば問題なく活動できますよね。不利益ないですよね」と発言し、芸名の重要性について軽視する裁判官もいます。
そのため、今後、芸能人やアーティストらの芸名やSNSアカウント等の権利を保護し、活動の自由を保障し、さらに芸能業界の働き方改革を推進し、自由かつ公平な競争ができるようにするために、エンターテインメント業界に関するルールを定める法律は不可欠だと思っています。
【取材協力弁護士】
佐藤 大和(さとう・やまと)弁護士
代表弁護士。芸能人の権利を守る「日本エンターテイナーライツ協会(ERA)」共同代表理事。エンターテインメント分野に強く、多くのタレント、アーティスト、ユーチューバー、スポーツ選手等の顧問弁護士をしている。厚生労働省「労働法教育に関する支援対策事業」教材作成委員、「職場におけるハラスメント被害者等に対する相談対応マニュアル検討委員会」の委員なども務めている。
事務所名:レイ法律事務所
事務所URL:http://rei-law.com/
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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