原爆投下から76年を迎えたこの夏、被爆地の長崎を舞台とする2本の映画が完成した。被爆者と英国人作家の交流を描いたドキュメンタリーと、60年前に発表された戯曲を元にした被爆マリア像をめぐる物語。いずれの作品も、被爆の記憶を若い世代にどう受け継いでいくかという課題と向き合っている。(比嘉太一、笹川翔平)
被爆者と英国人作家の交流たどる 「長崎の郵便配達」
「長崎の郵便配達」は長崎で被爆し、2017年8月に88歳で亡くなるまで核兵器廃絶を訴え続けた谷口稜曄(すみてる)さんと、英国人作家ピーター・タウンゼントさん(1914~95)の交流を描く。
谷口さんは16歳の時に自転車で郵便配達中、爆心地から北に約1・8キロの路上で被爆した。熱線に焼かれた赤い背中の写真を携え、国内外で核兵器廃絶を訴えた。10年5月にはニューヨークで開かれた核不拡散条約(NPT)再検討会議に合わせて渡米し、国連本部で各国政府代表を前に訴えた。タウンゼントさんはそんな谷口さんの半生を描いたノンフィクション「ナガサキの郵便配達」を84年に出版した。
映画の制作が決まった矢先に谷口さんが亡くなり、監督の川瀬さんは断念も考えたといいます。被爆者なき時代が迫る中、記憶や思いをどう受け継ぐか。映画ははからずも、被爆地が直面する課題と向き合うことになりました。記事後半では、もう1本の映画に主演した黒谷友香さんの作品にかける思いもご紹介します。
監督の川瀬美香さんは当初…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル