伝わらなかったら、存在しないのと同じ―。その信念を胸に、国際的に活躍するドキュメンタリー写真家が、若手の活動を後押しする助成金を創設した。進行中のプロジェクトがある35歳以下の写真家やアーティストを対象に、8月2日まで応募を受け付けている。テーマは不問。審査で重視されるのは「作品の価値をアピールする力」だ。(共同通信=武隈周防) ▽作品を伝える 「THE BACKYARD PITCH GRANT」と銘打った助成金を創設したのは、京都市在住の岡原功祐さん(40)。20代の頃から、人の「居場所」をテーマに、麻薬ビジネスに携わる中南米の人々や、自傷行為をしてしまう日本の女性たちの取材を重ね、国内外の雑誌などで発表してきた。欧州を拠点にしていた時期もある。海外で活動する中で、日本人は作品に込めた意図を伝えるのが苦手な傾向があると痛感した。 岡原さん自身にも苦い経験がある。パリで行われた助成金の審査で、聴衆を前に作品について発表したときうまく伝えられず、悔しい思いをした。以来、主張が明確な海外の写真家たちを身近で見ながら、自身も作品の伝え方を模索してきた。
▽メッセージが大事 スマートフォンで誰でもきれいな写真を撮れる現代は「作品に込められたメッセージがより大事になっている」と岡原さん。なぜ今そのテーマを選んだのか、なぜその作品に価値があるのか。応募者にとって、「それらを誤解なく伝えられるよう導く機会にできれば」との思いを抱く。 対象は若手に絞った。「日本で写真をやっている若い人は、経験という名の下に無給で手伝いをさせられるなど搾取の対象になりやすい。そういう嫌な体験はするべきではない」という考えからだ。 ▽15分間でアピール 写真家や編集者による審査を通過した10人が、一般聴衆の前で作品についてのプレゼンテーションを15分間行い、評価が高かった2人に助成金各10万円を授与する。出資者は、趣旨に賛同した岡原さんの友人ら。写真業界に携わっていない人からも寄付があった。 当初はプレゼン審査を、岡原さんが京都市内で主宰する古民家を改修したスタジオ「THE BACKYARD」で行う予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、〝密〟を避けるために会場の変更を決めた。オンラインでの実施も選択肢にあるが、「表情や、身振り手ぶりなど、言葉だけではない部分を直接感じられる方が伝わりやすい」との思いで、会場探しに奔走する。
応募及び詳細は専用ウェブサイト(https://thebackyard.jp/pitch)から。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース