年越しの風物詩「除夜の鐘」に対し、「うるさい」などとする苦情が寄せられ、中止したり時間を夕方や昼間に変更したりする寺院が後を絶たない。さらに、寺の檀家(だんか)の減少などで人手が足りず、深夜の鐘突きを見直す動きも。人間の百八の煩悩を払うという除夜の鐘が、世知辛い現代社会の寒風にさらされている。
「毎年突いてきたのに、年末の風物詩が消えてしまうのは残念」。さいたま市の寺院「玉蔵院(ぎょくぞういん)」で毎年除夜の鐘を突いてきたという自営業の男性(52)は肩を落とす。
JR浦和駅から徒歩5分の市中心部にある玉蔵院。約1200年前の平安時代に弘法大師が創建したとされ、除夜の鐘には毎年約200人が集っていたというが、今年は行われない。
中止決定の契機は、ほかの寺院に鐘の音が「うるさい」と苦情が寄せられているのを、寺側が知ったことだという。かつて昔ながらの個人商店が立ち並んでいた寺の周辺も近年はマンションや飲食チェーン店などが進出して様変わりしているといい、木村晴雄住職(77)は「苦情を直接受けたわけではないが、取りやめるのも自然な流れではないか」と話す。
除夜の鐘をめぐるトラブルは各地で起きている。
都内のある寺院は、平成25年に寺の建て替えに伴って鐘の位置を変更したところ、近隣の住宅から苦情が寄せられた。住民側から申し立てられた民事調停の結果、防音パネルの設置や除夜の鐘以外で鐘を鳴らさないことなどで合意したが、苦情を受けてからは鐘を突くのをやめている。
静岡県牧之原市の大沢(だいたく)寺では十数年前、除夜の鐘を突いていると「いつまで鳴らしているのか」と匿名の電話がかかってきたことから、除夜の鐘を一時やめた。26年からは再開したものの、時間を昼間に変更して突くようになった。群馬県桐生市の宝徳寺も27年から昼に鐘を突くようにしている。
寺の檀家の減少や高齢化の影響もある。
千葉県松戸市の広竜寺では、大みそか深夜から元日未明にまたがる除夜の鐘の行事が、手伝う住民らの大きな負担になっているなどの理由で、今年から中止するという。
福岡市の東長寺は昨年から鐘を突く時間を夕方に変更したが、その決断の背景にはやはり、元日の未明まで手伝ってくれる住民らの疲労などもあるという。
全日本仏教会によると、除夜の鐘にとどまらず、法要や祈祷(きとう)に対しても「騒音だ」という苦情が各地で寄せられているという。
担当者は「各寺院は地元に根づいているので、苦情を寄せる人も『騒音』を承知の上で住み始めたのではないのか」と疑問を呈しつつも、音の感じ方は人によって異なるため「判断は難しい」と頭を抱えている。
騒音問題総合研究所の橋本典久代表の話「音については保育園や学校行事などに対しても苦情が出ることがあるが、迷惑だからというよりも『他人の音が許せない』という不寛容さが広まっている。寺としては対処せざるを得ないかもしれないが、苦情があるからと言って取りやめていけば、あらゆることが一部の苦情でできなくなるので、安易な対応はするべきではない」
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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