台風19号による大雨で、茨城県を流れる那珂川や久慈川では氾濫が発生したのに警戒レベル5相当の氾濫発生情報が出なかった。国土交通省の検証で、所管する常陸河川国道事務所では他にも3河川で水位情報を出さなかったことが判明。これらは住民の避難行動に影響した可能性もある。同省は発表手続きの複雑さを原因とみるが、専門家は「予測技術を十分に生かせていない」とも指摘する。
「情報を送るという地域との約束を果たせなかったのは大変申し訳ない」。14日の検証チーム初会合後、国交省河川情報企画室の平山大輔室長はうなだれた。
同省によると、台風19号による大雨で那珂川、久慈川の計20地点で越水や溢水(いっすい)、堤防の決壊が発生。常陸河川国道事務所はこれらを把握していたが、那珂川では一度も、久慈川では決壊した1地点で情報を出さなかった。さらには茨城県内の3河川(涸沼川、桜川、藤井川)でも警戒レベル4相当の氾濫危険情報を出さなかった。
また、全国でも氾濫発生情報が出た2河川(吉田川、千曲川)、氾濫危険情報が出た6河川(鳴瀬川、吉田川、竹林川、鬼怒川、烏川、碓氷川)で、住民向けの緊急速報メールが配信できなかったという。
これらの原因について同省が注目するのは発表までの手順だ。指定河川洪水予報は河川事務所と地方気象台の共同発表のため、河川事務所は気象台と電話で連絡を取り合い、双方の決裁を経て情報を発表する。
河川事務所と気象台の「二重行政」になっている上、近くで別の氾濫が確認された場合、途中でやり直さなければならない。緊急速報メールの配信は河川事務所の上級庁、地方整備局の決裁が必要になる。
今回、常陸河川国道事務所で生じた計20カ所の氾濫発生数は「10カ所前後」とされる他の事務所と比べて格段に多かった。担当者は「複数河川で多数の情報が集中し、相当な混乱が生じた」と話し、手順の自動化や簡素化、人員配置の見直しを解決策として挙げる。
ただし、マンパワーには限界がある。災害が既に発生している可能性が高い警戒レベル5相当の情報が、洪水関連では、発生を直接確認しないと出せない氾濫発生情報しかないことも問題視されている。現在、主に雨量予測に基づく大雨特別警報はあるが、水位予測に特化した洪水特別警報はない。
河川防災に詳しい中央大理工学部の山田正教授(防災工学)は「洪水特別警報は空振りを恐れて導入できていないのが実態。気象災害の激甚化で防災政策が新たな段階に入った今、空振りを許容できるようにする法整備も必要ではないか」と話した。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース