虐待サバイバーが向き合った祖父の戦争 トラウマは「最強の殺し屋」

 漫画家の尾添椿(おぞえつばき)さんは、父の太ももに残された、大きなやけどの痕を覚えている。

 「子どもの時、真っ赤に焼けた火かき棒でおやじに殴られた」と、父は話していた。背中には数カ所、刺し傷があった。祖父に串や箸で刺されたのだという。

 「虫の居どころが悪いとすぐ殴られた。バットや木刀もあった」。父が17歳で家を出るまで、日常的な暴力は続いた。

 ところが、尾添さんの記憶の中の祖父は、まるで違った。「家族の中で唯一、私のことを守ってくれる、優しい祖父でした」

 初めて祖父に会ったのは20年ほど前。尾添さんが10歳のころだった。祖母が亡くなり、独り残された祖父が、尾添さん家族と同居することになった。

 祖父は心臓が悪く寝ていることが多かったが、体調がいい時は日曜大工で家具を作った。声の小さい、90歳手前のおとなしい老人だった。ただ、笑ったところはほとんど見なかった。

 当時、尾添さんは転校先の学校でいじめられ、泣いて帰っても両親はまともにとりあってくれなかった。「きちんと接してくれるたった一人の大人」だった祖父の傍らが、自然と居場所になった。

 ある日、父のやけど痕について祖父に聞いた。祖父はかすれ声で語り始めた。

 当時9歳だった父と一緒に…

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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