2016年4月の熊本地震で国道57号が被災し一部不通となった熊本県南阿蘇村立野で、通行止め地点ぎりぎりの場所で営業を続けてきたガソリンスタンドがある。ほとんど車が来ないなか、店長の丸野隆大(りゅうだい)さん(28)は「開き直りの状況」をSNSで発信。新たな常連客との交流をつくってきた。
待ちわびた国道復旧は3日。「今までと同様にお客さんとのつながりを大事にし、阿蘇を発信していきたい」と意気込みを新たにする。
店長就任は地震から2年後の2018年夏。店は長年、地元の人や国道を通る観光客らに利用されてきたが、地震で国道は寸断。一般車両の利用がほとんどなくなった代わりに主な業務となったのが、復旧工事現場への燃料の配達だった。腰の病気を抱えていた社長の父、隆生さん(57)が「助っ人が必要」と当時、熊本市の健康食品会社に勤めていた丸野さんを呼び戻した。
「田舎の店でもこれからはSNSでの発信が不可欠」と丸野さんは今後を見据え、19年1月からツイッターを開始。最初は地域の地震の傷痕を中心に報告していたが、「前向きに仕事していることを伝えた方がお店に来てもらえるのでは」と思い直し、観光やお薦めの店の情報とともに、店の前の通行止めや人が来ない店の様子を発信し始めた。
「Uターンじゃなくてガソリン満ターンにしてください。ってやかましいわ!!」。迂回(うかい)路の表示に気づかず国道を直進し、店の前の通行止め地点で警備員に制止されUターンしていく車が時折いる。そんな状況をつづると、応援も兼ね遠方からも給油に来る人が現れ始めた。お客さんも「丸野石油店で満ターンしてきました!」とツイートし、「満ターン」の合言葉が広がった。
車の通りがほとんどないので、店でゆっくりしていくお客さんもいる。家族経営の店の和やかな雰囲気に、常連になった人も多い。「少しでも常連の人を増やすことができ、自分が店長として立野に戻ってきたかいがあった」。
3日からは店の前でのUターンもなくなる。多くの車がまた通るようになるのか、同時に開通する国道57号北側復旧ルートに車が流れていくのか、わくわく感と不安が入り交じるが、今までと同じように「阿蘇に来てもらえるような発信をしていきたい」と丸野さん。「地域の観光に少しでも役立つことができ、ついでに給油もしてもらえたらうれしい」。店オリジナルのグッズに採用した新たなキーワードは「素通りされたらこ・ま・る・の」
農業をしながら1967年に店を創業した祖父の誠士さんは熊本地震から半年後に84歳で病気で他界したが、避難先から立野に戻り、立野の復興を見ることを心待ちにしていたという。「ガソリンスタンドは田舎の大事なライフライン。地元の人のためにも長く店を続けて欲しい」と言っていた祖父の思いをしっかり受け継いでいきたいと丸野さんは思っている。(後藤たづ子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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