57年前の1966年に静岡県でみそ製造会社の一家4人が殺害された強盗殺人事件をめぐり、死刑が確定した袴田巌さん(87)=浜松市=が裁判のやり直しを求めた再審請求審で、東京高裁(大善文男裁判長)は13日、再審開始を認める決定を出した。高裁はいったんは静岡地裁の開始決定を取り消したが、最高裁が高裁に審理を差し戻した結果、結論が変わった。
今後は、検察側が特別抗告すれば再び最高裁で審理される。検察側が特別抗告を断念すれば再審開始が確定し、静岡地裁で再審公判が開かれ、袴田さんは無罪となる公算が大きい。
事件は66年6月に発生した。静岡県の旧清水市(現静岡市清水区)のみそ製造会社の専務(当時41)方で一家4人が刺され、現金20万円などが奪われ、放火された。県警は同年8月、元プロボクサーでこの会社の従業員だった袴田さんを逮捕した。袴田さんは捜査段階で自白したとされたが、静岡地裁で裁判が始まると否認に転じた。
裁判中に見つかった「犯行着衣」
公判中の67年8月、別の従業員が会社のみそタンクの底から、血痕のついたTシャツやズボンなど5点の衣類を発見した。検察はこれが袴田さんの犯行時の着衣だったと主張。地裁は、衣類に袴田さんと同じ血液型の血がついていたことなどから「衣類は袴田さんのもので、犯行時の着衣」と認め、68年に死刑を言い渡した。死刑判決は80年に最高裁で確定した。
一方、2008年に申し立てられた第2次再審請求審で、静岡地裁は14年に再審開始を決定した。「血痕は袴田さんとは別人のもの」としたDNA型鑑定結果の信用性を認めたほか、「衣類を約1年間みそに漬けると血痕は黒褐色になるのに、発見時の衣類に赤みが残っているのは不自然」という、再現実験に基づく弁護側の主張を認めた。
衣類については「発見直前に捜査機関が投入した捏造(ねつぞう)証拠の疑いがある」とも述べ、袴田さんの死刑の執行停止と釈放も決めた。
「衣類の血の色」が争点に
しかし、東京高裁は18年、DNA型鑑定の手法の信用性を否定し、血痕の色の変化をめぐる弁護側の再現実験の正確性も認めず、再審開始を取り消した。
最高裁は20年、DNA型鑑定の信用性を否定した高裁の判断は支持する一方、血痕の色の変化について「審理が尽くされていない」として高裁決定を取り消し、審理を差し戻した。
1年余りみそに漬かった衣類の血痕は黒褐色になるのか、赤みは残るのか――。差し戻し後の高裁では、最高裁が絞り込んだ争点を集中審理した。弁護側と検察側の双方が鑑定書などを提出し、5人の専門家に証人尋問した。
検察側は「みその量や酸素濃度によっては赤みが残る可能性はある」と主張。21年から約1年2カ月にわたる実験を行い、裁判官が実験を視察していた。(村上友里)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
Leave a Comment