西南戦争や満州事変の生きた証し 旧真田山陸軍墓地補修

 旧真田山陸軍墓地(大阪市天王寺区)で、老朽化でもろくなった墓石の補強工事が始まった。戦争の犠牲になった一人ひとりの名前が刻まれた「生きた証し」を残そうと、取り組む人たちがいる。

拡大する真田山陸軍墓地の保全作業は、墓石の清掃から始められた=2020年1月9日、大阪市天王寺区、大隈崇撮影

 真田山陸軍墓地の一角で1月上旬、墓石を洗浄する作業が進んでいた。水とブラシを使って手作業で丁寧に汚れを落とす。乾燥させた後、石材強化剤をしみこませる。墓地を所管する近畿財務局が公益財団法人「元興寺文化財研究所」(奈良市)と契約を結び、約2千万円かけて3月までに70基を補強するという。

 ここでは、墓碑の多くが「和泉砂岩」というもろい岩石でできている。長年風雨にさらされ、一部が欠けたり、戦没者名や経歴などが刻まれた表面がはがれ落ちたりした墓碑も。近畿財務局はこれまで台風被害のあった納骨堂屋根瓦の補修などは実施してきたが、墓石の保全は初めてという。同局は「今後も関係団体と協議の上、計画的に修繕を進めていく」とする。

 真田山陸軍墓地は史跡や文化財ではない。同局が工事をするのも、「参拝者の安全確保のため、墓石の倒壊を防止する」という理由だ。作業にあたる元興寺文化財研究所総括研究員の雨森久晃さん(53)は、「残していかなければならない大切な場所。墓石というより、文化財を扱う気持ちで作業を進めたい」と話す。

 満州事変でヤリで突かれて死亡した一等兵、西南戦争で亡くなった屯田兵……。真田山陸軍墓地にある5千基超の墓碑に刻まれている戦死者は、西南戦争や日清戦争、日露戦争、満州事変など多岐にわたる。訓練中に水死したとみられる新兵など、国内での死者や病死者も埋葬されている。

 「みな墓に入るまでは生きている人間だった。なぜこの人が亡くなったのか、その手がかりを墓地は残してくれている」。真田山陸軍墓地の研究をしているNPO法人「旧真田山陸軍墓地とその保存を考える会」理事長で大阪電気通信大名誉教授の小田康徳さん(73)は、そう語る。

拡大する「墓標との対話」を出版した「旧真田山陸軍墓地とその保存を考える会」の小田康徳さん=2019年11月26日、兵庫県川西市、大隈崇撮影

 会は2001年に歴史の研究者や市民有志で発足。ボランティアで墓地を案内したり、行政に保存を働きかけたりする活動をしてきた。元大阪市立高校教諭の岡田祥子さん(62)は墓地の近くに住んでおり、「桜がきれい」と墓地を犬の散歩コースにしていた。12年に会の活動を見学したことがきっかけでこの場所が何なのかを詳しく知り、現在はボランティアガイドをしている。「平和学習の場として、フィールドワークなども実施したい」と話す。

 会員たちはこのほど、研究や活動の成果を発表する本を出版した。タイトルは「旧真田山陸軍墓地、墓標との対話」(阿吽社)。墓に眠る一人ひとりの人生を描いたものだ。

 幅広い年代の会員15人が執筆…

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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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