「とにかく尋常ではなかった」。広島県三原市本郷町船木の会社員、山下伸恵さん(40)は昨年の西日本豪雨の際、身を寄せた同じ地区にある父親宅が水没。孤立したまま一夜を明かしていた。
■2階で一夜明かす
昨年7月6日午後3時ごろ。長女(10)と長男(8)を迎えに行くため、車で小学校に向かっていた。強い雨が降り、ワイパーを強くしてもフロントガラスはほとんど見えない状態で、「異常な雰囲気だった」。
帰宅して庭をのぞくと、裏の山から濁った水が勢いよく流れ込んでいた。午後7時40分には、広島県に大雨特別警報が発令。「避難した方がいいのでは」と思ったが、隣に住む父親は「大丈夫」と答えたため、いったん自宅にとどまった。「父は70年近くここで住んでいたので、こんな被害になるとは想像していなかったようだ」と振り返る。
だが不安を感じ、子供たちと猫2匹を連れて両親の家に。9時ごろ。足に冷たい感覚が走った。床に目をやると、水が染みこんでいることがわかり、あわてて2階へ逃げた。水はあっという間に深さ2メートルにまで達し、1階部分はほぼ水没した。
「『やばい』と思ったときには手遅れ。停電になって室内は暑く、食べ物も飲み物もない。とても長く感じた」。2階の窓から見える外の景色は湖のようになっており、孤立した状態で不安な一夜を過ごした。
■集落一帯も水没
消防隊のボートに救出されたのは、翌7日夕方だった。「助かったと思ったが、これからどうなるんじゃろうと不安だった」。水が引いた後の田畑に小屋や車が転がっており、自宅は大規模半壊と診断された。
西日本豪雨で三原市は、建物被害が全壊290軒、半壊740軒に及んだ。特に同市本郷町船木の地区は、豪雨で増水した沼田川が決壊するなどして集落一帯が水没していた。
避難所や仮設住宅での生活を経て、自宅に戻れたのは昨年12月。庭には汚泥がたまり、ごみなどが散乱していた。時間を見つけて掃除をし、ようやく今年の春頃になって日常生活は戻ってきた。
豪雨以来、長男は雷と雨の音に対して敏感に反応するようになり、長女も強い雨が降ると「大丈夫?」などと不安を口にするようになった。
「災害はテレビの中の出来事と思っていたが、まさか自分が当事者になるとは。長年住み慣れた地元なので離れるつもりはないが、今度同じことがあれば家族で声をかけ合い、速やかに避難したい」
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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