和歌山市の鶴崎心桜さん(当時16)が虐待を受けて死亡した2021年の事件で、県の検証委員会が29日、当時の学校や児童相談所の対応と問題点をまとめた報告書を発表した。虐待に気づくきっかけになりえた「サイン」が見過ごされつづけた背景が浮かびあがった。
心桜さんは中学卒業後の21年6月、搬送先の病院で死亡した。心桜さんの母親(当時37=死亡)とともに心桜さんに暴力をふるうなどして虐待し、衰弱後も医療措置を受けさせず死亡させたとして母親の再婚相手(42)が保護責任者遺棄致死の罪で有罪判決を受けた。判決は、心桜さんが中学1年だった18年の秋ごろから母親による暴力がはじまったと結論づけている。
検証委が挙げる「サイン」のひとつは、心桜さんの中学時代の不登校だ。
報告書によると、心桜さんは中学2年から欠席がちになり、3年生は出席が0日だった。教員が家庭訪問を試みたが母親に断られ実現しなかったこと、連絡をメールで済ませ、学校が心桜さんを目視できない状態に陥っていたことなどが明らかになった。
県教委がつくった不登校問題の「手引き」は、欠席がつづいた場合に家庭訪問をしたり教職員で会議したりすると定めている。今回は、担任だけで対応するなど徹底されていなかった。
和歌山市教委は取材に対し、「母親と連絡がとれていることで安心していた。一定の対応はしていたが、背景の家庭事情に踏みこんだ調査・対応につながらなかった」と説明している。
「サイン」の二つ目は児童相談所とのつながりだ。
心桜さんが中学1年のとき、当時同居していた実父が心桜さんの生活態度について相談するなど、児童相談所がかかわりを持ったことが2度あった。だが2度とも「状況が改善した」としてそのときどきでかかわりを終了させ、継続的な支援につなげられていなかった。
報告書は、心桜さんの「サイン」を受けとった友人の存在にも触れた。心桜さんは中学2年のとき、「母親にやられた」と言って自身のあざを中学校の友人に見せたことがあったという。ただこれも具体的な支援につながらなかった。
委員長をつとめた桑原義登・和歌山信愛大学教授は29日の会見で「学校や児童相談所で気になるリスクが出てきているのに、それぞれで処理されている。学校や市、児童相談所がもっと有機的に連携していってほしい」と話した。(下地達也、国方萌乃)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル