観光船事故「リスク把握、知床の責務」 斜里町の協議会が中間報告

 北海道斜里町知床半島沖で観光船「KAZUⅠ(カズワン)」が沈没した事故を受け、自然体験型レジャー(アクティビティー)でのリスク管理を話し合ってきた町の協議会は28日、中間報告書を公表した。

 協議会は昨年8月に設置され、専門家や地元観光団体などが参加する。報告書では、「リスクを可能な限り網羅的に把握・評価し、その低減に地域として取り組む」ことが「知床に課された責務」と明記した。

 カズワンの事故の教訓として、地域による「リスクに関する情報発信が決定的に不足していた」ことを認識すべきだとした。

 具体的には、知床で催行されている自然アクティビティーを網羅的に把握できる基盤がないため、観光客が比較のための情報源を持ち得ないと指摘。「旅行者に対して総合的な情報を提供し、既知のリスクを開示・可視化し、共有すること」を求めた。

 「五湖」「連山」「滝」などを抱える知床は、標高や地形、勾配によって地域ごとの危険性は異なる。

 報告書は「自然環境が潜在的に有するリスクを可能な限り把握し、制度的、即時的に整理し発信する」と掲げた。具体的な取り組みとしては、観光客の死亡リスクに基づき町内を4段階にゾーニング(区分)することを想定するとした。

 報告書は、こうした潜在的なリスクに加えて、当日の気象条件やヒグマとの偶発的な遭遇、落石といった予見可能性の低いリスクも抱える、とも指摘。今後、原則としてガイド事業者などを帯同することを地域全体で推奨し、一部では義務化することを求めた。

 馬場隆町長はこの日の記者会見で「事故を教訓として、同様の事故を起こさないためにはどうしたらよいかを考え、着実に改善策に取り組むことが、町として大事だ」と強調。「自然のリスクを全て排除することは困難だが、地域全体としてリスクを可能な限り抑制し、マネジメントすることはできる」と話した。

 協議会座長で、北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院の石黒侑介准教授も「自然環境を相手にする以上、リスクはゼロにできない。完全に排除できたとしても、それは知床の魅力を損なうことになりかねない」と述べた。

 協議会は来年度末を目標に最終報告を公表する。情報発信の整備など、一部の対策は先行して実施していく予定という。(岡戸佑樹)

報告書に盛り込まれた「地域で取り組むべき新たな対策(案)」

【事業者】(義務)

・各社がアクティビティーの内容、実績、「ヒヤリハット」を定期的に報告する

・一定の基準に基づいて、各社がアクティビティーのリスク内容を旅行者に開示する

・リスクの高いエリアでアクティビティーを催行する事業者は、所定の救命講習などを受講する

【地域】(施策)

・ガイド、保険会社、学識経験者などを含む第三者によって、主要な場所の潜在的リスクのアセスメントを行う

・対策案に盛り込んだ義務や関連する法律、勧告などの遵守(じゅんしゅ)状況を総合的に検証し、一定の基準を満たしていると判断された事業者を認定し、そのエビデンスとともに開示する

【旅行者】(共有)

・事業者に対して口コミを提供・共有する

・ホットラインを利用して、事業者、サイト双方に関する評価、情報などを地域に対して直接提供する

Source : 社会 – 朝日新聞デジタル

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