今年1月、京都大の博士論文の発表に立った男性は拍子抜けした。「長く続けてきた研究の終わりがこんな形なのか」
50人以上が入れる大会議室にいたのは4人。大勢を前にして話すつもりで緊張もしていた。なのに、教員は2人だけ。残り2人は同じ日に発表があった学生だった。
「緊張は和らいだが、誰も自分たちの発表に興味ないんだなというむなしさの方が大きかった」
かつては博士論文の発表時に40人ほどが詰めかけ、議論が白熱していたという男性の記憶とは、ほど遠い光景だった。
オンライン参加もあったが質問は1、2問程度。その場にいた教員らとの応答で「研究の集大成」の時間は淡々と過ぎ去った。
男性が所属していたのは京大犬山キャンパス(愛知県犬山市)の霊長類研究所。昨年3月末に解体され、男性の研究室は野生動物研究センター(京都市)に移った。
霊長研は1967年に設立され、サル研究の世界的拠点として知られていた。
男性が大学院生として霊長研の門をくぐったのは2017年。創立50周年を迎え、記念式典も開かれた年だった。
歴史ある研究所を更に発展させようという雰囲気を感じながら、自らも絶対に研究者になると胸に刻んだという。
霊長研に所属してから、男性は半年ごとにアフリカを訪ね、ボノボやチンパンジーの生態に迫っていた。しかし、20年初めに帰国後、コロナ下で渡航できなくなった。
解体が後押しした就職
「安定を考えると、民間企業に就職した方がいいのかな」と将来を悩んでいた男性の背中を結果的に押したのが、霊長研の解体だった。
京大は21年10月に霊長研の解体・再編を発表。チンパンジー「アイ」の研究で知られる松沢哲郎・元特別教授(20年11月に懲戒解雇)らの不正経理問題などを受けた措置だった。会計検査院は11億円余りの不適正な支出を指摘していた。
男性は、解体の一報をニュースを見た知人から聞いたという。解体すれば不正は根絶されるのか――。新しい組織なら優秀で教育にも熱心な研究者を増やせるのか――。
十分な説明がないまま発表された解体に疑念が渦巻いた。「トカゲのしっぽ切りではないか」
「自由の学風」が変革の波に揺れている。霊長類研究所の解体や、講義の無料公開サイトの終了方針には反対や異論が噴出。国際卓越研究大学の選に漏れた京都大の今と行く末をどう見るか、学生や教員、卒業生らに聞いた。
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル