1月半ばの朝、漁師たちは海でイルカを追い込んでいた。
船が畠尻湾の近くまでさしかかったとき、漁師たちは空を見あげた。視線が1点に集まった。ドローンだ。黒い円盤のようなものがイルカの真上あたりを飛んでいる。
「こんな近くを飛ばれたら仕事にならへんで」。漁師のひとりが無線で言った。
ドローンは数分のあいだ海上を飛んだあと、湾のとなりの高台の方角へ消えていった。
漁師たちは撮られることに疲れきっている。仕事の最中に飛んでくるドローンはわずらわしいし、日々の行動を不特定多数に発信されるのは居心地が悪い。
「僕らはクジラを捕ることだけに集中したいのに、見られているんじゃないかという思いがいつも心のどこかにある」
海外からの反対派が町に姿を見せるようになったのは2000年を過ぎたころ。03年、追い込んだイルカを畠尻湾にとめおく網を反捕鯨団体のメンバーに切られた。
09年に公開された「ザ・コーヴ」は、漁師たちがイルカを捕殺する場面を描いた。翌年、米アカデミー賞を受賞して注目をあびた。海外から反対派が町に押しよせた。毎日の出航や追い込みの様子を撮影し、ネットで発信するようになった。
カメラが狙うのは、漁師たち…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル