平川仁
診断書がないことを理由に障害年金の申請を認めなかったのは違法だとして、身体障害のある藤田菊雄さん(78)=石川県宝達志水町=が国に損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決が15日、名古屋高裁金沢支部であった。蓮井俊治裁判長は、国の対応を「違法」と判断。請求を棄却した一審・金沢地裁判決を変更し、約27年間分の年金相当額を賠償するよう国に命じた。
控訴審判決によると、藤田さんは生後まもなく右手指を失った。1988年11月ごろ、身体障害者手帳を持参し、社会保険事務所で障害年金を申請しようとしたが、窓口担当者から「手帳は関係ありません」などと言われ、申請書類を渡してもらえなかった。当時の国民年金法施行規則には「(申請時は)初診日を明らかにできる書類を添付すべき」と定められていた。
一審判決は「初診日を明らかにできる診断書などを持参できなかった原告に対して申請書類を渡さなかったとしても、直ちに法令違反とはいえない」とした。
これに対し、蓮井裁判長は、手帳を見れば遅くとも11歳までに障害を負ったことなどは分かったと指摘。診断書がなくても、申請書類や手帳などがあれば、手続きはできたとし「誤った法令の解釈に基づいて申請を妨げ、国家賠償法上違法だ」と判断した。
訴訟で国側は、2015年の厚生労働省通知までは、診断書などがなければ申請は受け付けられなかったとし、窓口担当者の対応は適切だったと主張していた。藤田さんのように診断書がなく、申請が認められなかったケースはほかにもあるとみられ、控訴審判決が影響する可能性がある。
判決後、取材に応じた藤田さんは時折涙をぬぐいながら「感無量です」と繰り返した。同じように窓口で追い返された人たちがいるとして「福祉の窓口には、もっと温情があるべきだ」と語った。
厚労省の担当者は取材に「主張が認められず、厳しい判決。上告について関係省庁と協議し、適切に対処する」と話した。(平川仁)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル