東証プライム上場の大手機械メーカー「渋谷工業」(本社・金沢市)の前社長、渋谷弘利さん=2021年に90歳で死去=が入院していた金沢医科大学病院が、渋谷さんに認知症の症状があったにもかかわらず3億円を寄付させたのは公序良俗に反するとして、遺族3人が26日、同大学と当時の院長に約2億5千万円の損害賠償を求めて金沢地裁に提訴した。大学は「本学は正当な手続きを経て寄付金を受け入れている」とコメントしている。
渋谷さんは社長在任中の21年1月にサウナで倒れ、同病院に入院。退院後の2021年5月、同大学に3億円を寄付した。その後、8月に再び入院し、10月に死去した。
訴状などによると、渋谷さんには最初の入院後、大声で叫んだり、看護師の処置を拒んだりするなど認知症とみられる症状が現れていたという。さらに症状は悪化し、寄付のあった同年5月の時点で、渋谷さんの認知機能は「自分の財産を管理できない程度だった」(外部の専門医)と、遺族側は主張している。
遺族側は、渋谷さんの認知機能が低下しているにもかかわらず、主治医だった同病院の伊藤透院長(当時)が、家族への確認もなく寄付を誘ったのは公序良俗に反していると指摘。渋谷さんの意思能力を欠くため、寄付は無効だと訴えている。
渋谷さんの遺族と代理人弁護士は27日、金沢市内で会見を開いた。原告の一人、渋谷さんの長女・毛利貴和(きわ)さん(62)によると、渋谷さんにはすでに多額の借り入れがあったにもかかわらず、大学に3億円を寄付。遺族が約2億円の借金を返済しなければならないという。毛利さんは、大学側が家族に相談なく多額の寄付を募ったのは、「極めて異常だ」と語気を強めた。
遺族の代理人弁護士は、渋谷さんの病状に乗じて病院が寄付を募ったとして、「準詐欺罪にも該当しうる」と述べ、民事訴訟の推移しだいでは刑事告発も検討するとした。
遺族と大学は昨年3月から民事調停で協議を重ねてきた。遺族側によると、大学側は、渋谷さんから寄付の申し出があり、個人の意思に基づくと主張。寄付された21年5月の時点で渋谷さんが認知症だったとの証明がないとして、返還には応じなかったという。協議は、昨年8月に決裂した。
金沢医科大学は、取材に対して「訴状が届いておらず、コメントは差し控える。訴状の内容を確認してから対応したい」と回答した。
渋谷工業は1931年創業のボトリング機械などを手がける機械メーカー。前社長の渋谷さんは、馳浩・石川県知事の連合後援会長を務めるなど、地元財界の有力人物だった。(川辺真改)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル