認知症の人も自分のペースで買い物を楽しめる「スローショッピング」が、岩手県内のスーパーで広がり始めている。買い物だけでなく、介護する家族同士の交流の場や、地域の人たちが認知症への理解を深める場にもなっている。
「急がないで、ゆっくりでいいですよ」
滝沢市のスーパー・マイヤ滝沢店で昨年12月9日、買う物を書いた紙を見ながら、商品を選ぶお年寄りの姿があった。サポート役のボランティアが声をかけ、転ばないよう体を支える。
カートの手すりには、両手が使えるようアクリル板のメモ立てがつけられている。支払いは、「ゆっくり会計」と表示され、優先的に使える時間帯があるレジでする。
その間、一緒に来た家族は、イートインコーナーを会場にした「くつろぎサロン」で、他の家族や医師、市地域包括支援センターの担当者らと話をしたり、情報交換をしたりする。
スローショッピングは、認知症の人がボランティアの手を借りながら店内を回り、商品を選んで会計するまでを自分でできるようにする取り組みだ。
同店では、2019年7月から毎週木曜の午後に行われており、昨年12月で100回を超えた。
提案したのは、市内で神経内科・脳神経外科のクリニックを営む医師の紺野敏昭さん(72)。「商品を選んだり会計をしたりしているときの顔が、いきいきしている」と話す。
認知症になると、会計でとまどったり、同じ物を買って家族にしかられ行くのを止められたりして、買い物から遠ざかってしまう。
「何十年もやってきたことを取り上げられると、存在意義や生きがいをなくす」。そう考え、社会とのつながりを実感してもらおうと思いついたのが、買い物だった。
家族を介護している人や行政の担当者らと一緒に、思い切ってマイヤの会長を訪ねた。快諾をもらい、「認知症になってもやさしいスーパープロジェクト」が始まった。
店側は認知症サポーター養成講座を開き、従業員や地域の人が受講。カートにつけるメモ立てのほか、商品やトイレの場所を示す案内シートを高齢者の目線に合わせて床にはるなど、店内を少しずつ整えている。
20年からは経済産業省の補助を受け、当事者や専門家の意見を聞きながら案内板の色や文字の色、店内放送なども見直している。
スローショッピングは現在、マイヤが入るアバッセたかた(陸前高田市)でも行われている。盛岡市内のマイヤ2店舗でも今年度中に始める予定で、他の自治体や団体からの相談や視察も相次ぐ。
今後の課題は、送り迎えしてくれる家族がいなくても買い物ができるようにすることで、紺野さんは解決策を模索中だ。「地域資源にして、全国に広げていきたい」と話す。
■介護する家族 支える場に…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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