「海洋放出するしかない」-。東京電力福島第1原子力発電所で、微弱な放射性物質トリチウムを含む「処理水」をめぐり、9月に原田義昭環境相(当時)の問題提起が論争を呼んだ。小泉進次郎環境相は原田氏の発言を謝罪したが、処理水は最終処分方法が決まらないまま増え続け、貯蔵タンクが原発の敷地を占領している。
【写真】福島第1原発敷地内に立ち並ぶトリチウム水などが入ったタンク
今月、日本記者クラブの取材団に参加し、福島第1原発の構内に入った。海抜35メートルの高台エリアに、高さは10メートルほどの円筒形の処理水タンクが並んでいた。990基(117万トン分)ある。タンクの間隔は2メートルないくらいで、「所狭し」といった印象だ。
構内の建物の9階から見渡すと、タンクが敷地を埋め尽くしている様子がよく分かる。原田氏から「現地を見れば『これは何とかしないといけない』と思うはずだ」と聞いていたが、その通りだった。
現在進めている廃炉作業の本丸は、1~3号機の原子炉内に残る燃料デブリ(事故で溶けた核燃料)やがれきを撤去することだ。
「地域に戻られる方々の生活に心配をおかけしないように、難しいといわれているデブリの取り出しもしっかり行う。このスタンスは変えていません」
東京電力廃炉コミュニケーションセンターの木元崇宏副所長はこう語る。今後、燃料デブリやがれきを一時保管するスペースが必要になる。高台エリアを埋め尽くす処理水タンクが、廃炉実現の障壁になることは明白だ。
「廃炉に向けた作業スペースを(大津波に襲われた場合のリスクが低い)高台に確保したいが、この状況では難しいですね」
案内した東電の担当者は厳しい表情をみせた。
タンクは1基あたり1200トン前後の水を貯蔵できる。ただ、1日あたり平均約170トンの処理水が生じており、1週間から10日で1基が満タンになる。
原発敷地内には、あと20万トン分程度のタンクを置くスペースしか残されていないそうだ。今のペースで増え続ければ令和4年夏に限界を迎える。
原子炉内の燃料デブリは高い放射線量を持つ。デブリを冷却した水や、原子炉内に流れ込んでデブリに触れた地下水や雨水は放射性物質を含む汚染水になる。東電は特殊装置で汚染水からセシウムやストロンチウムなどの物質を取り除き、これが処理水と呼ばれる。
トリチウムは濾過(ろか)できず残るが、放射線のエネルギーが弱い上、体内に取り込まれても排出される。このため、世界中の原発で海洋や大気中への放出が行われている。
日本国内でトリチウム水は1リットルあたり6万ベクレル以下であれば海洋放出できる。福島第1原発の処理水は100万ベクレルほどなので、20倍に薄めれば安全基準をクリアする。原子力規制委員会は科学的根拠に基づいて海洋放出を勧めている。
一方で、地元の漁業者は「福島の水産物は安全ではない」という風評被害を懸念する。処理水の処分方法は、有識者らでつくる経済産業省の小委員会が議論しており、海洋放出のほか、水蒸気放出や地層注入などを例示しているが、結論は見えていない。
原田氏は9月の環境相退任の前日、記者会見こう訴えた。
「思い切って(海洋に)放出するしかない。安全性からすれば大丈夫。風評被害について国を挙げて補完することも極めて大切だ」
これに対し、後任の小泉氏は9月の就任初日、原田氏の発言が福島県の漁業者を「傷つけた」と謝罪した。ただ、どう処理すべきかという自身の考えには言及しなかった。
その後、松井一郎大阪市長(日本維新の会代表)科学的に安全性が証明されれば「大阪湾での放出を受け入れる」との考えを示すなど、処理水は重要な政治課題として注目を集めている。時間を浪費しても状況が改善するわけではない。安倍晋三政権には重い政治決断が求められる。(田中一世)
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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