泥水の中を身重の女性は夫と進んだ。しばらくして新たな命が生まれた。昨夏の記録的豪雨から4日で半年。熊本県球磨(くま)村では多くの命が失われ、今も被災の爪痕が生々しい。すくすく育つ赤ちゃんは、夫婦の、集落の人々の希望になっている。
球磨村の神瀬(こうのせ)地区。昨年7月4日の豪雨で氾濫(はんらん)した球磨川沿いの集落には、屋根まで濁流にのまれた家々が立ち並ぶ。
12月26日、地区の集会施設で年の瀬の炊き出しがあり、各地の仮設住宅で暮らす住民たちが集まった。人の輪の中心に、生後4カ月の大岩詩(うた)ちゃんがいた。住民たちはのぞき込んだり、呼びかけたり。父・翼さん(35)と母・栄里香さん(32)に抱かれ、不思議そうな目で周りの顔を見ている。詩ちゃんは夫妻の長女で、豪雨後、村で初めて生まれた赤ちゃんだ。
拡大する詩ちゃんを抱き、集落の炊き出しに参加した大岩翼さん、栄里香さん夫妻=2020年12月26日、熊本県球磨村神瀬地区、藤脇正真撮影
集会施設のそばに、夫妻が住んでいた平屋の村営住宅がある。固まった泥が部屋に積もり、屋根には草が生えていた。「何回来ても、涙が出ます」。栄里香さんがつぶやいた。
保育士をしていた栄里香さんは2018年、村の森林組合で働く翼さんと結婚。妊娠9カ月を迎えた頃、豪雨に見舞われた。
あの日。栄里香さんと翼さんは…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル