気象庁の河川流量予測で警戒レベルの基準を大幅に上回る「100年に1度」規模の水位上昇があっても発表されず、避難の参考として周知する国土交通省中心の指定河川洪水予報に反映されない事態が相次いでいる。「100年に1度」は7月豪雨で氾濫し、熊本県内で60人以上が死亡した球磨(くま)川や筑後川、最上(もがみ)川で予測された。気象庁の流量予測が国交省の防災情報に生かされない背景には、予測への不信感がありそうだ。(市岡豊大) ■2度とも予測 筑後川は断続的な大雨で7月7日午前8時35分と8日午前1時の2回、大分県日田市の同じ地点で氾濫発生を住民に周知する氾濫発生情報が出された。気象庁の流域雨量指数では日田市で7日午前4時時点で午前9時ごろに「100年に1度」規模の値に近づくと予測。2回目は午後9時時点で8日午前2時に近づくと予測していた。 いずれも雨のペースが早く予測よりも早く到達したが、「100年に1度」の予測は1回目、2回目ともに4時間以上前だった。 気象庁の流域雨量指数は国交省と共同で発表する大河川対象の指定河川洪水予報には反映されず、一般には公表されない。筑後川の指定河川洪水予報では5段階の警戒レベルで4相当の氾濫危険情報が1回目は氾濫の約2時間前の午前6時半、2回目は約1時間前の8日午前0時に出された。 ■水位へのこだわり 同様の状況は熊本県の球磨川と山形県の最上川でもあり、最も早いケースでは氾濫確認の9時間前に「100年に1度」を予測した。大規模な水位上昇を数時間前に予測できたのに、なぜ生かされないのか。 指定河川洪水予報は基本的に基準水位に達したことを「トリガー」(きっかけ)として発表される。国交省の担当者は「気象庁の雨量予測を基に実際の水位を踏まえて精度の高い洪水予報を出しており問題ない」と強調する。ただ、水位は正確さを担保する半面、先の予測は難しい。担当者も「長時間の予測を示せという指摘は理解できる」と認める。 一方の気象庁は、流域雨量指数は中小河川向けの情報で、大河川向けの指定河川洪水予報と「役割分担している」(担当者)との立場だ。 ■予測への不信感 省庁間の「壁」は特別警報にも現れる。大雨、暴風などに特別警報はあるが、洪水にはない。気象庁が出す特別警報は実際に災害が発生している恐れがある警戒レベル5の情報として発表するが、国交省と共同で出す氾濫発生情報は目視などで実際に氾濫が確認されないと発表できない。 ある防災専門家は「技術は大幅に進歩したのに、昔ながらの河川現場は今も予測情報への不信感が根強い」と指摘。政府関係者は「洪水予報には実質的に予測が全く利用されておらず時代遅れだ。『100年に1度』の洪水が予測された時点で特別警報を出すことも検討していい」と話す。 専門家の間では国交省の水位データと気象庁の予測技術を統合すべきだとの指摘がある。北大大学院の山田朋人准教授(水工学)は「防災情報としては水位だけでなく流量予測も含めて流域全体を俯瞰(ふかん)すべきだ。組織にこだわらず、地域の実情に応じて判断できる洪水予報センターなどの設置が望まれる」と話した。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
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