豪雨などによる浸水で入り込んだ汚水や泥を洗い流し、取り壊さず繰り返し使える――。そんな「洗える家」を一般社団法人「埼玉いえ・まち再生会議」(さいたま市南区)が考案した。きっかけは水害対策だったが、「一世代で壊す」日本の住宅のあり方への異議でもある。(黒田早織)
同会議は、設計事務所や工務店、都市計画の教授、建材業者、弁護士など多様な人材が集まり、建築に関わる様々な相談を受ける組織。「洗える家」づくりは、同会議理事で1級建築士の小山祐司さん(74)が娘の河原三保さん(41)夫婦に家づくりの相談を受けたことから始まった。
国土交通省のハザードマップによると、河原さんの新居の建設地(川口市東領家)は荒川氾濫時に3~5メートルの浸水が想定されている。同会議は浸水しても最小限の被害で復旧できる家を目指すことにした。
浸水被害で大変なのは家に流れ込んだ水や泥の処理。一般的な住宅は、建物の骨組みや素材の内部に入り込んだ水や汚れを除去する方法がなく、外壁も内壁も取り壊して新しくするしかない。総額1千万円近くの費用がかかるといい、大量の廃棄物が出る。経済的にも環境的にも負担だ。
これに対し、「洗える家」は土台や柱、断熱材に水を通さない素材を採用。水がしみこまなければ、表面の洗浄だけで汚れと臭いを除去できる。油性の汚れは水での洗浄では足りない場合もあるため、業務用洗剤で洗浄・消毒をする。日常的に触れる部分である室内の壁だけ取り換えれば、衛生面は問題ないという。
小山さんは「コップに例えると分かりやすい。中に汚水が入っても、水を通さない材質なら汚れは落ちるし、洗剤でごしごし洗える。今までの家はそれができなかった」と解説する。
外壁と内壁の間には数センチの隙間を作った。ここからきれいな水を流し、内外壁の間に入り込んだ水や泥を洗い流すことができる。キッチンや洗面所も取り外し可能で、壁との間に汚れが入り込めば洗って繰り返し使える。
洗浄後は、屋根から取り込んだ太陽熱を、建物内部の送風機を使って床下や壁内に送り込み乾燥させる。家の大部分をそのまま生かせ、廃棄物になるのは室内の壁のみ。修理費用は約250万円で済む試算だ。小山さんは「復旧工事で大量の廃棄物を出すことなく家を再利用できる。SDGsの理念にもかなっています」と話す。
平均寿命が短い日本の家
「今の日本の建築技術では100年住める家ができるのに一世代で使い捨てられる」。小山さんが洗って長く使える家を造った大きな理由の一つは、そうした現状への疑問からだ。国交省が発表した住宅寿命に関する資料でも、平均で米国約55年、英国が約77年なのに対し、日本は約30年だ。
古民家の再利用は以前より増えたが、おしゃれなカフェやアトリエとしての再生ばかり。「普通の人が住む家が長く使えなきゃ意味がない」と小山さんは言う。同会議を立ち上げたのも、家を「造る」だけでなく、家のメンテナンスの仕方を助言し「見守る」ためだ。「洗える家」は耐震基準も最も高い等級3で、正しくメンテナンスすれば「100年住める家」だと小山さんは胸を張る。
「洗える家」は今月末に完成予定。河原さん夫婦も「自分たちの家が社会的課題の解決の一端を担えれば」と話している。28、29日には、市民や工務店など誰でも参加できる一般公開が行われる。問い合わせは同会議(048・789・7381)へ。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル