8月の大雨被害から約1カ月。日本三大美味鶏の一つとして知られる秋田県の比内地鶏も大きな被害を受けた。生産の盛んな県北部では鶏舎が流され、多数が死んだ。郷土料理きりたんぽ鍋に欠かせない食材だが、すでに品薄状態になっており、名物の先行きも懸念される。
「あそこに鶏舎があったんだ。それが流されてなくなってしまって」
今月1日、秋田県大館市比内町味噌(みそ)内の比内地鶏生産者・佐藤徳雄さん(75)を訪ねた。入院中の徳雄さんに代わり、案内してくれた妻の吉子さん(70)が指さした方向を見ると、濁流が川となって流れていた。
濁流の中からわずかに姿を見せていたのは電柱だった。鶏舎に電気を流していたものだという。その説明を聞き、そこに鶏舎があったことにやっと納得した。
佐藤さんのところでは、鶏舎3棟のうち、2棟が8月12日夜の大雨で流された。避難していた親族宅から13日朝に様子を見に来たところ、1棟は濁流で鶏ごと下流まで流され、残骸すら見つかっていない。もう1棟も押し流され、潰れていた。出荷が間近だった鶏も含め約2500羽が流されたり、鶏舎の中でおぼれたりして死んでしまった。
生き残ったのは、わずか20羽ほどだった。吉子さんは「(比内地鶏の生産を)続けたい気持ちはあるが、鶏も設備も失った。この年齢で借金をして、一からやるのはつらい」と話した。
徳雄さんは大雨被害の後、以前から痛めていたひざの手術のために入院。その後も雨が断続的に降り続いたこともあり、壊れた鶏舎や泥の片付けもままならなかった。「エサにカキ殻を混ぜたり、(鶏舎に敷く)土を良くしたりと、あの人(徳雄さん)と30年やってきた」と吉子さん。泥がたまった鶏舎の中で立ちすくみ、声を絞り出した。
県によると、8月の大雨の影響で、県内全体で出荷予定だった1万6756羽が死んだ。鶏舎(比内地鶏用ハウス)2棟、飼料19トンが被害を受けた。被害額はいまのところ2500万円超に上るとみられる。
影響は、飼育や設備などの経…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル