札幌弁護士会の大崎康二弁護士に聞く
新型コロナウイルスの感染拡大が日本社会を揺らしています。未知のウイルスに対し不安に思うことは誰でもありますが、中にはふだんでは考えられないような極端な行動をとってしまう人もいるようです。こうした行為は、民事、刑事の法律面からはどういう扱いになるのか。札幌弁護士会の大崎康二弁護士に聞きました。(聞き手 小林基秀)
買い物中、カートに入れたものを横取りされた…
――スーパーで、会計前の買い物カートに入れていたトイレットペーパーを、目を離したスキに誰かに持って行かれたとします。売り場に戻った時はもう品切れ。このような横取りは窃盗などの犯罪になるのでしょうか。
窃盗罪は、占有者の意思に反して自己または第三者の占有に移転させた場合に成立するもので、占有の侵害が必要となります。このケースでは、スーパーとの関係では、他人のカートから商品を持ち出しても店の商品に対する占有を侵害することはなく、スーパーに対する窃盗は成立しません。購入予定者との関係では、レジを済ませる前の段階で商品を購入予定者が占有しているといえるのかが問題となりますが、レジを越えるまではスーパーに商品の占有があると考えられるので、窃盗罪の成立を認めるのは難しいと考えられます。ただし、他人のカートから商品を持ち出せば、買い物客同士でトラブルとなり、仮に暴力をふるったふるわないのトラブルになったとすると、暴行罪などが成立することも考えられます。
――会計前とはいえ、カートに入れたことで、購入する意思は示しています。それでも窃盗罪は成立しないのでしょうか。
カートに入れた段階では、まだ商品棚に戻す可能性もあるので、どこまで占有が確定的といえるのかということです。例えば、誰かから預かっている物を他者に取られたら窃盗になりますが、カートに入れた段階で、お店から占有を委託されたとはみなせないので、前者とは区別されると思います。また、万引きの場合、トイレットペーパーを手に持っただけでは犯罪にはなりません。レジを過ぎて店外に出た所で、初めて犯人への占有移転が確定的になり、窃盗が「既遂」になります。この点から考えれば、カートに入れた時点では、その買い物客への占有移転が確定したとまではいえず、窃盗罪の成立を認めるのは難しいと考えます。
――店員が、他人のカートから商品を横取りしている場面を見た場合、横取りした客に「返しなさい」と指示できますか。
指示する法的権限はないですが、店側が「他の人のカートから取るようなトラブルを起こす人には売りません」と販売を拒否することはできます。誰に売る、売らないは売る側の自由という、「契約自由の原則」があり、売ることを拒否すること自体は違法ではありません。例えば、アパートの部屋をこの人に貸す、貸さないという審査もそうです。ただ、その内容が差別的な場合は、別の法律に抵触する可能性はあります。例えば、障害者であることを理由に売らないというような扱いをすれば障害者差別解消法に抵触します。今回の横取りした人に商品を売らないのは正当な理由といえます。
【関連記事】
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
Leave a Comment