親が育てられない子どもを匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を運営している熊本市の慈恵病院は7日、予期せぬ妊娠をして匿名を望む母親が、病院にだけ身元を明かした状態での出産を受け入れると発表した。すぐに実施する。子が後に自分の出自を知る権利を病院が独自に保障する仕組みを設けるといい、事実上の「内密出産」となる。
「内密出産」はドイツでは2014年に始まった制度。一定の年齢に達した子どもから希望があれば母親の身元を知らせ、母子の安全を図りながら出自を知る権利を担保する。慈恵病院は国内での内密出産制度の実現をめざし市や国に協力を訴えてきたが、子どもの戸籍作成や特別養子縁組などで課題があると指摘する声もあり、制度は整っていない。
蓮田健・副院長によると、まず匿名での出産を希望する妊婦から相談を受け付ける。病院側の説得でも妊婦が身元を明かさない場合は、何年後なら身元を明かしてよいかなどを取り決める。妊婦は病院内にある「新生児相談室」の室長だけに身元を明かし、仮名のまま妊婦健診を受けたり、出産したりできる。費用は病院が負担する。
病院側は免許証などの身分証明書をコピーして保管。子どもが一定の年齢に達して親の名前を知りたい場合は、病院が保管していた身分証明書を開示するという。ただ、妊婦が「一生匿名」を希望した場合には出自を知る機会が失われる「匿名出産」になることもあり得るという。
蓮田副院長は「全国で赤ちゃんの遺棄や殺人事件が起きている。匿名での出産を断った妊婦のその後が気になっており、母子の命にかかわる自宅などでの孤立出産を防ぐための取り組み。事例を重ねないと法整備は進まないので腹をくくって始める。今後も匿名を希望する妊婦へのカウンセリングなど相談を重ね、実名を明かしてもらう努力は続ける」としている。(白石昌幸)
■〈記者の視点〉母子の命を守る…
980円で月300本まで有料記事を読めるお得なシンプルコースのお申し込みはこちら
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル