長崎県平戸市で、ある夫婦がダチョウの飼育に挑んでいる。飼い始めて11年余。赤字を抱えながらも、地域おこしに向けて奮闘を続けている。
同市野子町の漁業元山尊光(たかみつ)さん(64)と、てる子さん(63)の夫婦は、同市小田町に借りた約2ヘクタールの土地でダチョウ25羽を飼育する。名付けて「おっ!ダチョウ村」。小田町をPRしようと、地名にちなんでてる子さんが考案した。
尊光さんがダチョウに関心を抱いたのは十数年前。野菜くずなどで育ち、肉は鉄分が多く、低脂肪・低カロリーでヘルシー。鶏卵の25倍ともいわれる巨大な卵は、食用はもちろん、インフルエンザ抗体を効率よくつくるのにも向いている――。テレビ番組で、こうした情報を見聞きしていた。
そのころ、地元の高校を卒業した次男が東京の会社に就職した。「ここに仕事がないから離れた。それなら、仕事を作ってやろうと思った」と尊光さん。
ダチョウは牛や豚と比べ、えさ代も少ない。2007年、同市田平町でダチョウを飼育していた人からヒナ9羽を、鹿児島県の業者からヒナ13羽を仕入れた。近所の農家などから廃棄される野菜を分けてもらい、近くの知り合いの男性と飼い始めた。
卵を産めるメスは現在8羽。年400個を超える卵を産む。その多くを自宅のげた箱を改造した孵卵(ふらん)器で温める。ヒナをかえし、飼育数を増やすためだ。有精卵は20個に1個ほど。誕生したヒナも死ぬことが多く、飼育方法は手探りだ。
卵を出荷する平戸瀬戸市場は「お客さんが、大きいと驚いてくれる。話題性はあります」。1個3千円ほどで、てる子さんは「高くて、なかなか買ってもらえません」と苦笑いする。
肉は1度出荷した。熊本県人吉市に5年ほど前、約10羽を運んだとき、ダチョウは尊光さんの後について、おとなしく処理施設に入ってきた。「これから命を絶たれるというのに素直についてくる。もうかわいそうで」。その後、出荷は見合わせている。
年130万円ほど出る赤字は、尊光さんが長男らと営むメダイ漁の売り上げで穴埋めしている。でも、夫婦の熱意は衰えない。IT機器の掃除具に向く羽毛などは事業化の可能性がある。昨年、テレビでも紹介され、「もうけにはならんけど、話題にはなった」。明るく笑って、ダチョウと向き合っている。(福岡泰雄)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル