兵庫県尼崎市で、年間約5千万円の赤字で閉店したスーパーが連日、住民の往来でにぎわっている。地域社会の将来を考え、交流の場へと変身を図った旧コープ大庄(おおしょう)店。少子高齢化や競争激化で転換期を迎えつつある各地のコープのモデルケースにもなっている。
同市南西部の大庄地域にある「大庄元気むら」。もとのコープ大庄店は、長く「コープさん」と親しまれたが2019年9月に閉店した。「生活協同組合コープこうべ」の組合員や住民、自治会、地元の事業者、介護・福祉関係者らが運営委員会をつくり、同年11月に集いの場として再生した。今も「コープさんとこ」と呼ばれている。
体操や絵画、ウクレレなどのサークル活動や教室が開かれるほか、放課後は子どもらが自習や卓球などを楽しみに訪れる。認知症に関心がある人向けのカフェ、音楽会、野菜の出張販売、夏祭りなど季節のイベントも定期的に開かれる。
土地・建物はコープこうべが所有し、運営委員会が管理・運営。光熱費などの維持費はコープが出す。
利用者の山崎達子さん(82)は「近所にあるからこそ、引きこもらずにすんでいる」と話す。
約180坪の小規模スーパーだった大庄店は、1980年に開店。入場制限をするほどの活況を呈し、ブリの解体ショーが開かれるなど「芋の子を洗うように人がいた」という。
しかし2000年以降、近隣に競合店が複数進出。少子高齢化による人口減少が業績悪化に拍車をかけた。最盛期に年間20億円あった売り上げは、最終年は1億2千万円。年5千万円の赤字を出す店になった。
店の将来像を検討するため17年11月、コープこうべの前田裕保さん(56)は、周辺調査に取りかかった。店の半径300メートル内に住む人の約2割が75歳以上。うち約半数が単身世帯だった。朝昼晩と1日に3回買い物に来る年配女性が、従業員との会話を楽しんでいた。
「店をつぶして起きることは高齢者の孤立」と危機感を抱いた前田さん。支えてくれた組合員を切り捨てるつもりかと、会議で浪花節をぶって何らかの形で維持する提案をした。約3億円の価値と見込まれた土地の売却も検討されたが、最終的に「助け合いで社会をよくすることを目指す生協だからこそ、何かやってみようとなった」という。
始めに店舗内の組合員集会室を開放した。すると、利用する介護事業者や高齢者の人脈ができ、独りぼっちの昼食が寂しいなどの声が聞こえてきた。
18年12月に閉店を公表。地域住民や組合員らを含め約50人で店の将来像の「ネタ出し」を積み重ね、元気むらの形を決めた。
再スタートから4カ月後には新型コロナウイルスの感染拡大。出ばなをくじかれたが、感染対策をしながら取り組みを続けた。来場者は月500~1千人程度で推移。利用登録しているサークルは30超になった。
目下の課題は認知度の向上だ。「せめて元気むらの前に移動店舗があればもっと知ってもらえるのでは」と店舗の集客力がなくなったことを悔やむ声もある。運営委員の村瀬洋一さん(74)は「目的がなくてもふらっと中に入れる雰囲気づくりを模索中」と話す。
兵庫県と大阪北部に約140店舗を構えるコープこうべは、今年創立101周年を迎えた。少子高齢化が進み、閉店の選択を迫られる店舗もある。店の周辺は組合員の組織率が高く、閉店は主要事業の宅配にも影響する。大庄のケースは、生協として組織率を維持する狙いもあった。
大庄がモデルケースとなり、閉店に直面した店が、近くに集いの場を作る動きも生まれている。前田さんは「地域の人たちとのやりとりで、ネットワークができノウハウが持てた。地域に喜ばれ続けるために、これまでと違う暮らしの支え方も考える必要がある」と話す。(中塚久美子)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル