タイトル通算25期を誇る超一流棋士でさえ、自分の心拍数が上がるのがはっきりとわかる大接戦だった。将棋の超早指し団体戦「第3回AbemaTVトーナメント」の予選Bリーグ第3試合、チーム渡辺VSチーム稲葉が5月16日に放送され、大将戦で渡辺明三冠(36)が佐々木大地五段(24)との三番勝負に2勝1敗(千日手1含む)と勝ち越し+1ポイントを獲得、チームを決勝トーナメントに導いた。中堅戦を終えてポイントが並び、大将戦を制した方が予選通過となる大一番で、第1局を落とし、第2局は千日手指し直し。そこから2連勝というドラマチックな展開に、現在最多の3つのタイトルを持つ渡辺三冠にして「ここまで心拍数が上がらない」というほどの白熱した戦いとなった。
やる方も見る方も、心臓からバクバクと音が聞こえそうな、そんな激闘だった。先鋒の石井健太郎五段(28)、中堅の近藤誠也七段(23)が相次いで連敗し、十分なリードを持って迎えていたはずの試合が、大将戦を前にまさかの同点に。相手の猛烈な勢いを感じた渡辺三冠も「自分だけ1回も勝ち越せていない。このまま負けたらまずい」と強い気持ちを作っていた。
だが後手番の第1局は、相居飛車の出だしから若手実力者・佐々木五段にうまくペースを握られた。中盤の仕掛けでも対応を誤り「ちょっと完敗でしたね」。チームとしてはまさかの5連敗を喫し、予選通過目前だった試合開始前から一転、今度は予選敗退の窮地に追い込まれた。
崖っぷちの第2局、先手番でも苦しんだ。序盤はうまく指せていたかに見えたが、徐々に旗色が悪くなると、先手番としては歓迎しがたい千日手に。もう負けられない状況で、後手番で指し直すことになってしまった。
それでも何が起こるかわからないのが、この超早指し棋戦。お互いの時間も尽きかけた終盤、佐々木五段がチェスクロックを止め忘れるミスが生じ、両者ともパニックに。落ち着いていれば、佐々木五段の連勝もあったかもしれないところでのハプニングの末、渡辺三冠がなんとか勝ちを拾った。
内容はどうであれば、1つ勝ったことで渡辺三冠にも追い風が吹き始めた。運命の最終・第3局は、第2局と同じ後手番。各棋士から「珍しい」と指摘された一手損角換わりを2局続けて採用した。中盤をややリードして進めたものの、持ち時間が尽きかける最終盤には詰むや詰まざるやの大熱戦。これにはさすがの渡辺三冠も「ここまで心拍数が上がることは、普段の公式戦でもない。すごく緊迫した将棋が指せる舞台」と興奮した。最後の最後で勝利を離さずリーダーの面目も保つと、「最後はなんとか残せました」と疲労の中にも達成感を滲ませた。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース