車で交差点を右折中、高校生が乗った自転車を巻き込んで転倒させてしまったが、「救急車はいりません」「何かあれば医療機関等で診てもらいます」と言われて、そのまま何もしなかったところ、後日トラブルになったという相談が弁護士ドットコムに寄せられた。
事故当時、高校生はケガをした様子もなく、自転車も壊れていなかったが、後日、警察に連絡をしたため、ひき逃げ事件として扱われ、相談者が救護義務違反で在宅起訴されてしまったそうだ。
相談者は、高校生が「ケガは大丈夫」「救急車はいらない」と言っていたため、納得していないが、このような場合でも警察に連絡して対応しないと、罪になりうるのか。阿部泰典弁護士に聞いた。
●道路交通法は「救護義務」を規定している
ーー「救護義務」とはどのような義務なのだろうか
「道路交通法は、交通事故があったときは、『当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない』と規定しています(道路交通法72条1項前段)。
なお、ここで出てくる『交通事故』とは、『車両等の交通による人の死傷若しくは物の損壊』とされています(同法67条2項)。
つまり、事故を起こしてしまい、被害者が負傷していたり、物が壊れていたりした場合は、救護しなければならないこととなっています」
●救護義務違反は「やむを得ない」
ーー今回のケースでは、被害者の高校生が「ケガは大丈夫」「救急車はいりません」と言っており、けがをした様子もなく、自転車も壊れていなかったようだ。それでも、救護の必要があるのだろうか
「たしかに、今回のケースでは、救護の必要性がないようにもみえます。
しかし、必要な措置をとらずに、運転者自身の判断で、被害者の負傷は軽微であるから救護の必要はないとしてその場を立ち去ることは許されないとした裁判例があります(最高裁昭和45年4月10日判決)。
この裁判例では、人身事故を発生させたときは、運転者は直ちに車両の運転を停止し、十分に被害者のけがの有無や程度を確かめる必要があると示しています。
そして、被害者がまったく負傷していないことが明らかである場合や、負傷が軽微なため被害者が医師の診療を受けることを拒絶した場合などを除き、少なくとも速やかに医師の診療を受けさせる等の措置はとるべきだとしています」
ーーそうすると、今回のケースでも救護しなければならなかったということだろうか
「はい。事故の直後は、被害者も動揺し、正常な精神状態ではないことも多く、自分のけがの状況について冷静な判断ができているとは言い難いといえます。そのため、被害者の言っていることをすべて鵜呑みにしてよいとは言い切れません。
今回のケースの場合、被害者は高校生です。加害者が大人の場合、相手に気後れをして、十分に自分の意思や感情を表に出せないことも考えられます。
また、被害者は自転車に乗っており、転倒していますから、何らかのけがをしている可能性は高いといえるでしょう。
さらに、被害者は『何かあれば医療機関等で診てもらいます』と言っているので、医師の診察を拒絶しているとはいえません。相談者は、被害者を病院に連れて行き、医師の診察を受けさせるべきであったといえます。
したがって、今回のケースにおいては、救護義務違反で在宅起訴されてもやむを得ないと考えます」
【取材協力弁護士】
阿部 泰典(あべ・やすのり)弁護士
平成7年4月 弁護士登録。平成14年4月 横浜パーク法律事務所開設。平成21年度 横浜弁護士会副会長。平成24年、25年度 横浜弁護士会法律相談センター運営委員会委員長、横浜弁護士会野球部監督
事務所名:横浜パーク法律事務所
事務所URL:http://www.yokohama-park-law.com/
Source : 国内 – Yahoo!ニュース
Leave a Comment