石川県輪島市で輪島塗の製造販売を手がける老舗のが、在庫の出荷を本格的に再開し、伝統工芸品復活への一歩を踏み出している。7代目の桐本泰一さん(61)は「もう一度、輪島のものづくりを発信していきたい」と意気込む。
1月31日午後2時過ぎ。市内にある同店の工房で、桐本さんが段ボール箱を軽トラックに積み込んでいた。
「よし、完全出荷、再開」
満足そうに一言つぶやくと、スマートフォンで写真を撮り、市中心部の宅配業者の拠点へと急いだ。
この日は、日本橋三越本店(東京都中央区)にある直営店などに向け、約270個の漆器を出荷した。
創業200年以上の歴史を持つ同店は、3年前、現在の場所に工房を移転した。耐震設計されていたことが幸いし、建物の応急危険度判定は青の「調査済」。商品も散らばりこそしたが、壊れることなく無事だった。
被災後、商品の状態などを確認し、1月7日にオンライン販売を再開した。全国から応援メッセージとともに注文が相次いだという。宅配業者が事業者向けの配送を再開するまでは、急ぐ商品だけを、七尾市や金沢市まで片道2時間ほどかけて持ち込んでいた。
多くの販売店や職人が被災し、日本を代表する伝統工芸品の輪島塗は、存続が危ぶまれる。
「輪島キリモト」も、家を失った職人がおり、水道も復旧していないため、新たな商品の製造は再開できていない。
桐本さんは「僕は昭和世代の『よっしゃ頑張れば何とかなる』っていうタイプの人間だけど」と言い、こう続けた。
「今は力強く旗を振るのではなく、被災し一人一人の職人さんと相談し、いいものをつくろうという気持ちを絶やさないようにすることが大事だと思う」。長い道のりだが、少しずつ元に戻したいと考えている。(関田航)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル
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