国の重要無形文化財に指定されている、石川県輪島市の伝統工芸「輪島塗」。市内に百を超える事業所の大半が能登半島地震で被災したが、職人たちは「伝統の技を途絶えさせぬ」と、避難先や輪島市で、再建に向けて動き出している。
2月16日から3日間、東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開かれた「いしかわ伝統工芸フェア」には、輪島塗の業者9店が参加した。無事だった商品を輪島市から運んで販売した「采色塗なか門(かど)」の中門睦子さん(65)は「手に取ってもらって『いい』と言ってもらえるから、前向きになれます」と話した。
輪島塗は、工程ごとの分業制で成り立っている。中門さんの夫の博さん(66)は、仕上げの漆塗りを担当する「上塗り職人」だ。自宅兼工房は倒壊こそ免れたが、ギャラリーに陳列していた商品は落下して傷ついた。漆が入った缶や器が倒れ、床にぶちまけられていた。最初は何もする気になれなかったという。
それでも、次第に被害を受けた輪島塗製品の修理依頼や、新規の依頼が舞い込むようになった。「分業だから、たまたま工房が無事だったうちが塗らないと生産が止まる。やれることはやろう」と、博さんは1月23日に上塗り作業を再開した。店に勤める職人の一人も金沢市内に避難中だが、2月中旬から週3日は輪島に戻り、中門さん宅に泊まりこんで上塗り作業をしている。睦子さんは「従業員の生活が第一。働く場所がないと、せっかく良い腕の職人さんが辞めてしまうから」と話す。
分業制の職人たちをマネジメントする「塗師屋(ぬしや)」の大藤漆器店は、3月上旬に金沢市内で仮のギャラリーと工房を開く準備をしている。
社長の大藤孝一さん(67)によると、店が抱える約25人の職人の半数以上が輪島を出て、金沢市周辺に避難しているという。大藤さんは仮のギャラリーを、各地に避難した輪島の人たちが集い語らう場所に、工房を蒔絵(まきえ)師や沈金師が自由に出入りし、なりわいを続けられる拠点にしようと考えている。「何年かかっても、必ず輪島に戻って輪島塗を作る。それまでの間、地元の仲間が近くにいる、安心して仕事ができる場所が必要なんです」
別の塗師屋の田谷(たや)漆…
※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル