昨年7月の西日本豪雨から間もなく1年。被害が出た北九州市門司区大里(だいり)東で、近くの傾斜地から大量の土砂が自宅に流れ込む直前、道なき雑木林に分け入って逃げ切った女性(83)がいる。避難用のリュックサックを事前に用意し、少し離れた避難所の位置も頭に入れていたが、九死に一生を得た背景には、とっさの判断があった。
平屋の自宅は、夫婦2人が犠牲となった同区奥田の土砂崩れ現場から、山を隔てて北西へ約1キロ離れた場所にあった。7月6日朝、1時間雨量が約64ミリと非常に激しい雨が降っていた。
「会社に行けなくなったら困るから」。同居の孫(25)をせかし、見送った後だった。外に出てみると真横の道路には既に、大量の雨水と土砂が押し寄せ、滝のようになっていた。午前7時40分ごろだったと記憶している。
玄関付近にも土砂が迫っていた。慌てて消防に助けを求めたが「手が回らない。歩けるなら避難してほしい」と言われ、電話は切れた。リュックサックにタオルやお金を押し込み、レインコートを羽織った。
外に出て目に入ったのが近くの傾斜地とは逆方向に位置する裏手の雑木林。今まで足を踏み入れたことはなかったが、避難所に通じる道路に出るには「ここしかない」と思った。たまった雨水でぬかるみ、長靴に水が入ってぐちゃぐちゃになりながら竹やぶをかき分けて数十メートル歩き、避難所にたどり着いたという。
自宅内に土砂が流れ込んだのは、女性が離れて間もない午前8時ごろとみられる。しばらくして駆け付けた消防隊員が、辺りに棒を刺して安否を確認していたことを後で知った。台所周辺には90センチほどの土砂がたまっていた。雑木林にも土砂は押し寄せており、判断が遅ければ逃げることすら難しかったかもしれない。
亡夫を長年介護した思い出が残る自宅は再び身を寄せることなく今月中旬に更地になった。今は門司区内の公営住宅で暮らす。バスを使い昔からの友人に会いに行くのが楽しみという。
土砂崩れが起きた傾斜地は市の所有地で、土砂災害警戒区域の真横。「のり面の管理をしっかりしてほしかった」という思いは残っている。
【ワードBOX】西日本豪雨での北九州市の被害
北九州市では2018年7月6日朝から非常に激しい雨が降り、門司区奥田で土砂に巻き込まれた2人が死亡、5人が重軽傷を負った。約19万人に一時、避難指示が出た。住宅被害は全半壊29棟を含む413棟。崖崩れ407件(門司区が最多の175件)のうち54%が、土砂災害特別警戒区域などに指定されていなかった。道路やブロック塀の損壊なども709件起きた。
西日本新聞社
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