能登半島地震では、近所の人がお年寄り宅を訪ねて回り、避難所に連れ出したケースがありました。ただ、短時間で迫ってくる津波を前に、日頃の訓練通りに対処できるとも限りません。難を逃れた住民が記者に問いました。「あなたなら、どうしますか?」
能登半島の北部に位置する石川県能登町の立壁地区。海から約50メートルの家に一人で暮らす中町勝子さん(83)は、元日夕の大きな揺れに四つんばいになって耐えた。「怖くて怖くてどうしようもなくて」
揺れが収まり、杖をついて外に出ると、近くの元看護師の女性(70)が駆けつけてきた。足腰が弱く、押し車や電動車いすで外出する中町さんのことをいつも気にかけてくれる。
倒れた車庫の戸を直そうとしたが、「ともかく行かないと」と手を引っぱられ、数十メートル先の集会所まで急な坂を上がった。「たか(高台)上がれ、たか上がれ!」と叫ぶ隣人たちの声が聞こえた。
一方、元看護師はその後、自力での避難が難しい90代の女性の自宅にも向かった。女性が玄関口から目の前の海の様子をうかがっているのを確認し、いったん集会所に車いすを取りに戻って、再び女性宅へ。「いっぺん避難するから!」と5回ほど呼びかけた。小さな返事が聞こえるだけでなかなか出てこない。近くの男性2人も駆けつけ、女性が乗った車いすごと持ち上げて坂道をのぼっていった。
元看護師が海に目をやると、普段は見えない海底の黒い岩がむき出しになっていた。高台から「海の底やー」と叫ぶ声。集会所に戻る途中、自宅に残っていた80歳近い夫婦にも「津波が来る。はよ出てきて!」と声をかけた。
ちょうどその時、最も海に近い家に津波が押し寄せるのが見えた。夫婦と一緒に坂を全力で駆け上がった。
津波が来たのは地震から10分ちょっとだったと、元看護師は記憶している。「津波の時はばらばらに避難をと言われているが、一人で逃げられない人もいて見捨てるのは難しい。ただ、津波がもっと早かったら……」
元看護師とともに避難した中町さんは「動けん人もみんな助けて高台に上げてくださって、本当に頭が上がらない」と話した。
「家族のことで精いっぱい」の現実
地区の民生委員の浜高康雄さ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル