遠くのビルの間から津波が見えた。記者は逃げたが、避難先の歩道橋にたどりつけず、波にのまれてしまった。2回目は避難に成功したが、うねる津波が周囲の建物をのみ込んでいった。
仮想の映像と分かっていても迫力に息をのんだ。
南海トラフ地震など、さまざまな災害に備えた避難訓練の形を、技術の進化が変えつつあります。仮想現実(VR)で再現された巨大津波を記者が体験しました。
九州大大学院工学研究院の浅井光輝准教授(防災情報)が開発したVR装置「仮想津波避難体験シミュレーター」だ。数値計算の専門家でもある浅井さんが、市街地に高さ3メートルの津波が流れ込む映像づくりを手がけた。頭部にヘッドマウントディスプレーを装着し、センサー付きの靴をはく。首や足を動かすと、映像内で走ったり周囲を見渡したりできる。
浅井さんは「津波がすごいスピードで迫ってくる様子を体験できる。津波が見えてから逃げても遅いことも実感できるはず」。2016年に初号機が完成。現行の2号機は自治体の防災イベントなどにも出動し、好評という。
避難行動で結末も変わる
和歌山大システム工学部の床井浩平准教授(メディア情報学)は、離れた場所にいる複数の人が同時に避難訓練に参加するシステムをつくろうとしている。
縦2メートル、横3・2メートルの大型スクリーンを3面並べ、ヘッドマウントディスプレーに劣らない迫力で水害の映像を流す。いくつかの避難行動の選択肢を用意し、その行動をモーションキャプチャーで解析。ゲーム感覚で適切な避難を学べるようにする計画だ。
床井さんは「固定のシナリオではなく、参加者の行動により結末が変わるようにする。避難行動について考える機会を提供したい」。3月までに完成させ、将来的にはメタバース上に公開する構想という。
「つながり」と「没入感」を生み出す先端技術は、ビジネスやゲームなど様々な世界で花開いている。
防災分野では、紙のハザードマップを見ただけではイメージしづらい災害を視覚化し、従来の「放送が流れ、外に逃げる」といった避難訓練では味わえない体験を実現しつつある。
死角はないのか。
インパクトが強いだけに
AR(拡張現実)やVRの防…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル